デビルマン クライベイビー 実録!地獄の窓際族

モラルの向こう側、精神をねじ伏せる傑作。
そして思い出す23時の悪夢

1月5日にNetflixで配信が始まった「デビルマン クライベイビー」
正直、「デビルマン」の事は詳しくなく、永井豪自体も何を書いたか知っているが作品にきちんと触れたことはほぼなかった。

ただ、1話あたり25分で全10話なので、映画より気楽に観れると思い再生したところ

飛び散る血しぶき、生首も内臓もドバドバ放出の謝肉祭状態
グロだけでなくエロも徹底、乳首、ケツは当たり前、異性間だけでなく
同性同士のワイルドなマンボーもばっちり描写されている!!

そして心をお通夜の帰り道レベルにする救いのないストーリー展開。完全にドはまりして1日で全話観てしまった。

モラルもコンプライアンスもない、トラウマになりかねないビヨンド・ザ・永井GO!!

とにかく「すごいものを観ている」という圧倒的なインパクトにねじ伏せられっぱなしだった。

1回目は思考が映像に追いついていなかったので、改めて見返していた。

「よく半世紀近く前の作品をここまで現代的にアレンジしたな」と関心したり
「悪魔に置き換えているだけで昔からマイノリティに対する迫害はあるもんな」と珍しく考察したり、
「人生で最大級の射精だ」と何度見ても度肝を抜かれたり、
「ラップで告ってくる奴ほど殴りたいものはない」と新たなムカつく人種を発見をしたりと2回目の「デビルマン クライベイビー」を観ていた時、いつのまにか涙が流れていた。

そう、忘れかけていた記憶が蘇る。

5年前、まだ俺が新卒で入社した会社に勤めていた頃の話。

当時の上司(以下M)が社内で「最悪」で有名なおっさんだった。

Mは52歳で管理職ではなかった。
勤めていた会社では50歳を越えて管理職ではない人間は大きく分けて2つのタイプがあった。

1つは事なかれ主義で一切自分の意見がない者
2つは仕事は出来るが、意見するので上に気に入られていない者

Mはどちらでもなかった。純粋に社会人として終わっていた。

まず仕事をしない。昼前に会社を出てそのまま直帰するので、影で「行方不明」「レアキャラ」と言われていた。
一緒に仕事をするようになってわかったのだが、昼の3時頃に打ち合わせを終わらせた後は4時まで喫茶店で時間を潰しそのまま家に帰っていた。

同行していた俺が一人で定時までに事務所に帰ってくることはザラだった。

事務処理を一切しない(覚えようとしない)。
俺が代わりに事務処理をしている隣でインターネットでYahooニュースを一生懸命読んでいた。
事務処理を理解していないものだから、適当な契約を結んだり手配が遅れてしょっちゅう社内でトラブルになった。

会議では「顧客との関係は良好、受注間近」と報告するが、訪問しても数分話すだけで気の利いた提案を一切しないので会社への貢献はほぼゼロだった。

たまに受注した日にはメールでブログの記事かってくらい長文で自分の功績を報告していた。

電話の声が無駄にデカく、Mが電話していると周りが消えていった。

性格が良いならまだ救いがあるが、やたら自信家で偉そう。本人は「仕事も遊びも一流」と思っていた。

特撮やアニメ好きなどオタク気質があり詳しいのは事実だが、すぐに知識でマウントを取ろうとするので誰も話に乗ろうとしなかった。

ネットで即刻ブロックされたり2ちゃんで晒される典型的なタイプだった。

そんな感じで仕事も性格面もクソだったため、いくら飲み会で

「映画でも特撮でもアニメでもアイドルでも俺は万物の話が出来る」と自分の知識の広さを豪語していても「まず仕事しろや」と誰も自分からMに話は切り出さなかった。

同じ課だった頃、しょっちゅう飲みに呼ばれては自分より遥かに年下になってしまった上司達の悪口を延々言っていた。
散々愚痴を聞かされて「今日は割り勘な」と毎回締めてきた。

そんな日々を繰り返すうちに俺の仕事へのモチベーションは降下する一方だった。

当時は適当に仕事を切り上げてはすぐ近くの日本橋をぶらついていた。余談だが2日に1回くらいのペースでいたから、掘り出し物をしょっちゅう見つけた。そのためホットトイズはめちゃくちゃ安い値段で手元に集まっていった。

そんなある日の飲み会の事。
「Mさんは50代に思えない若さですよね。働き方とかまるで新入社員みたい(笑)」 といつものようにバカにされていたが、M自身は意図を理解できず「ガハハ!!俺はガンガン営業するし、気持ちも若いからな!」とご満悦だった。

二次会でスナックでカラオケをすることになった。
他部署の課長が機動戦士ガンダムの「哀戦士」を下ネタアレンジで歌い盛り上げた次にMの出番だった。

目立ちたがりのMは自分が注目される時が来た事に興奮していた。「とっておきのネタ出したるわ!!」とMが選んだのは「デビルマン」の主題歌だった。

「早く帰りたい」と思いながらもこの時ばかりはMに少し期待していた。

Mよ、今こそいつも豪語しているようにお前がおもしろい事を証明してくれ…

ところがMはボケるわけでもなく、立ち上がるわけでもなく、普通に歌いはじめた。

「あれは誰だ、誰だ、誰だ♪」

 おまえが誰やねん・・・・。

決してうまいわけでもない。何ならちょっと照れ気味に歌っている。

一番おもんないパターンだった。

ただでさえ好かれてないのにこのクオリティだ。
体育会系の会社だったので、普段は目上や年配者を必要以上にヨイショするのだが、この時ばかりは誰も手拍子や合いの手を入れない。ここぞとばかりにトイレに行く人間が続出している。

嫌われている奴が調子の乗るので全くおもしろくない状況。Mのデビルマン熱唱はサタン降臨後の世界、アーマゲドンそのものだった。
2番に入るころには明らかにMのテンションは下がっていたが、最後まで歌い切ろうとした。

そして神も悪魔もMを見放した。最後の最後で声が裏返り
「正義のヒーロー デビルマン、デビルミャーン」と叫んだ。

ケツの穴に指を突っ込まれたような声で叫んだ「デビルミャーン」にすら触れられず、Mの出番は全く受けずに最悪な状態で終わった。

Mはその日違う人のコートを着て帰って大ひんしゅくだった。

「神よ、一刻も早く滅ぼしてくれ。」と願った。

それから数ヶ月が経ち、俺は会社を退職する事にした。
Mが直接の原因で辞めるわけではなかったのだが、「こいつといても惨めになるだけだ」とうんざりしていたのは事実だった。

形式的に引き留められて二人で飲んだ時、Mは想像と違って落ち込んでいた。
「辞める原因は俺か?俺みたいなこの年になって昇進できない人間の事バカにしているんだろう?俺はお前と仕事するの楽しかったのに!!」

これはMの本心だろう。

向上心はないくせに自己承認欲求は一人前のMにとって自分より下と思っていた周りがどんどん昇進していくのは耐えられなかったのだろう。「〇〇部長も〇〇本部長も俺の動機」と以前酔って言っていた事がある。
自分はというと会社で孤立。いじけてきて今のどうしょうもないおっさんが出来上がっていったのだろう。

死ぬほどダサい…というかMが惨めで仕方なかった。俺は絶対にこんな人生を送りたくない。

あれから4年近く経ち、久しぶりにデビルマンという作品に触れてMを思い出した。涙は悲しみではない。
俺も30を超えて「やっぱりあいつバカだったな」という嘲笑から来る涙だ。

今となってはMとの出会いはある意味貴重だったと思える。
Mの元を離れてからの俺は働くことに対してかなり真剣になった。

50歳を超えて誰からも相手にされず、裏でバカにされ続けてデビルミャーンと叫ぶ人間…

俺は絶対なりなくない!!

現代が生んだ闇。小学生レベルの思考回路を持つ中年。あいつこそ悪魔、いやクライベイビーだったのかもしれない。

Mはどうしてるだろう?「この事業は俺にしかできない」と言っていたが、会社としてはいつ切っても良い事業を担当しているだけだったし、事務処理もできなかった・・・もしまだ会社にいたらあいつは幸せだと思う。

きっと今もどこかで「デビルミャーン」と叫んでいるのだろう。