度を越したポジティブ思考とアナーキー精神!『脱獄・広島殺人囚』

年末年始となると前向きになれる映画を観たくなるもんですが、愛とか希望とかをあからさまに描かれた映画で前向きになるのも何だかコッチが負けた気になるというもの。

そういう人にオススメしたいのがコチラの映画。

 

 

松方弘樹主演『脱獄広島殺人囚』!

もうタイトルからして物騒でしかないのですが、そんじょそこらで見かける前向き思考を軽く凌駕している…観ていて気持ちがいいほど突き抜けたバカを描く本作。

つまり年末年始にはピッタリな映画ですね!

みなさん、松方弘樹と聞くと大体が『マグロを釣る人』というイメージを抱くかもしれんが、甘く見てはいけない。

70年代の松方弘樹は間違いなくキレキレだった!と証明してくれる一本ですよ。

戦後の混乱期。

ヒロポンの取引がこじれ、なりゆきで二人殺しちゃった松方弘樹

おかげさまで懲役が20年ついてしまう。

こがな所で20年もいるほどワシの尻の皮は厚くないんじゃ!」と、懲役が増えようが増えまいが四捨五入したら同じ!と、大雑把かつ豪快な前向き思考『脱獄→捕まる』を延々繰り返す、というのが大まかなあらすじ。

 

この映画、ビーパワーの傑作基準刑務所は20分以内に脱獄する」を満たしているのだが、それにしても脱獄する回数が多い。

もう飼い始めた犬ばりに脱獄する。

しかし劇中、計4回ほどクソまみれ血まみれ泥まみれになりながら必死に脱獄するものの、よせばいいのにソコラへんをプラプラ出歩く松方弘樹。

おかげさまで毎回、だから言ったじゃねえか!と言いたくなるようなショボい理由で捕まるのだった。



・映画を見た影響でトイレの鏡の前で拳銃片手にドヤ顔を決めてたら一般人にガン見されて通報

・風俗で隣の部屋の客とド突き合いをしていたら通報

・立派な屋敷に逃げ込み、何故か飾られている甲冑に隠れていたら案の定バレて逮捕

「俺は人間じゃないから相手にしているお前たちも人間じゃない」という、強引すぎる東映ロジックで偉そうな刑務官を斬りつけ更に逮捕

普通の人間であれば凹むか丸くなる所ではあるが、そこは70年代の松方弘樹。

基本的に反省はゼロ!

こうして、話が進むにつれてRPGのように懲役レベルが上がるのだった。

そして懲役レベルが上がるにつれ、松方弘樹のアナーキーさにも拍車がかかる。

 

例えば、こうだ。

ムショで意気投合し、一緒に脱獄した経験もある梅宮辰夫が同じ房のヤクザにリンチされたと聞くや否や即刺殺!

その後、殺したヤクザの舎弟が同じムショにブチ込まれ、「兄貴分が殺されて黙っていたら、私も極道としてメシを食っていけません。つきましては今度の休みにタイマンを張りましょう」と、正々堂々と勝負を挑まれるのだった。

まさに男の鏡のようなヤクザである。

松方弘樹も渋い演技でソレに答える。

 

しかし松方弘樹は考えた。

「今度は負けるかもしれん…」

そして、ひとしきり考え、ある答えを見出す……

 

 

 

 

 

 

「勝ったら勝ちや↑!」(めっちゃ声のトーンが上がる)

「男らしゅう決闘じゃ何じゃ今どき流行らん!と判断!

……結果…

 

ゲエーッ!汚い‼

約束を守らずに風呂場でヤクザを迷わず刃物で刺す松方弘樹なのだった!

あるいは裁判を受けてからの護送中、外の窓にギャルの後ろ姿が目に入る。

ここでも心の中で呟く松方弘樹。

「こんとき見えたんじゃ、社会が…」

突如ヤル気を出して警察官を振り切るのだった。

 

良い話にしようとしてるけど、見えたのギャルじゃねえか!ツッコむ間もなく弘樹は逃走!

 

反省ゼロな人間ってのは、お近づきにはなりたくないが見方を変えるとブレない生き方をしている』という点では実に面白いもんです。

やってることはダーティかつバカだが、不思議と観る者にメキシコの太陽のような爽やかさを感じさせてくれる。

間違いなくナオト・インティライミよりインティライミしている!

いわばヒロキ・インティライミだ!

他にもヒッチハイクして即死ぬ西村晃ルパンのマモーの声やってた人ね)など、どうかしている見所は多い。

・・・とまあ、色々どうかしている映画だが『犬や猫でもいい。俺は社会<シャバ>に出たい』という凄まじいキャッチコピーからもソレは伺い知れる。

本作以外にも「仁義なき戦い」を例に挙げるまでもなくアナーキーは70年代の東映に確かに存在していた。 

日本のパンクス俳優共ががむしゃらで無軌道な魅力をスクリーンでギンギンに発揮していた時代。

スタイルじゃなく、魂がパンクな野郎共が確かに、そこにいた。

 

今観返しても、針が振り切ったアナーキーさとダーティさ、かつギャグすれすれのバイオレンスは観る者に「俺も頑張ろう!何だかわからんけど!」という明日への活力を与えてくれる。

そんな70s東映でも随分前から見たくても見れなかったのが脱獄広島殺人囚。

今の社会もムショみたいなもんですからね。

最後、大根を齧りながら線路を歩き、シケモクを見つけて石で火をつけようとカンカン叩く姿は、みっともないけど何だか前向きさを観る者に与えてくれる。

まさに10年以上待った甲斐があった、期待にそぐわぬゴリゴリの反骨映画なのだった。

 

残念ながら今年(2017年)逝去してしまった松方弘樹。

カッコ悪いけどカッコいいという矛盾を孕んだ演技は映画の中で今でも生きている。

今ならNetflixで配信しているので、年末年始は初詣、おせち、そして松方弘樹に決定!