素晴らしい愛の終わり「ヴェノム:ジ・ラスト・ダンス」

アメコミ映画というのは変身やアクションを観たいものだが、「ヴェノム」に関してはトム・ハーディーとの会話を延々聞いておきたい。

思えば、「ヴェノム」はアメコミ史上最も予想を裏切った映画だった。

元々、マーベルでも屈指の人気キャラ。俺は子供の頃に「マーブルスーパーヒーローズVSカプコン」で知ったくちだ。
2000年代から実写での登場を待望されていたが、「スパイダーマン3」ではまさかの戦闘は他に任せて後方でぐちぐち言うだけのスネ夫ポジションでの登場に世界中ががっかりした。

そして2018年。凶悪なヴィジュアル、主演はトム・ハーディー、おまけに主題歌はエミネム。
日本でも「最悪」とキャッチコピーの入ったポスターが話題を集めた。

アメコミ映画とは思えないダークでグロテスクな映像が見れる、どきどきしながら映画館に向かったものだ。

エディ(トム・ハーディー)に寄生して体のコントールを奪い、脳に直接話かける。そこまでは俺の知っているヴェノムだったがエディが迷惑をかけた元カノとの関係もケアするなど身の回りの事も心配する押しかけ女房っぷりを発揮

おまけに「俺達に隠し事はないぞ!」「寄生って表現は嫌だなぁ」「”俺達”は一つだからな!!」とやたら絆を確認する様子は、「凶悪なド根性ガエル」ともいえるかわいらしさとラムちゃんがビキニ姿の女の子ではなく海苔の佃煮になった「うる星やつら」のような甘酸っぱさがあった。

会話の様子からして同性同士のような関係性ではあるが、「友達」にしては距離が近すぎる、飲み会で酔っ払ったらキスしだすのではないかという危うさが多分に含まれていた。

イチャイチャする二人にとりあえず俺は「アメコミ史上最高のラブコメ」と称した。

次作「レット・ゼア・ビー・カーネイジ」では二人のイチャイチャっぷりは加速。「最悪」のキャッチコピーは完全にど忘れ。

寄生先をとっかえひっかえしては、酒場ではしゃいだ後「俺がウケてたところエディにも見せたかったな」と落ち込むヴェノムを見て俺は昔、ドラゴンボールとの同時上映で強制的に見た「マーマレードボーイ」を思い出した。

前作のヒットで製作側も彼らの扱い方をわかってきたみたいで、本作のヴィランであるカーネイジとの決戦前には
「まずい!!あいつは強すぎる!!今すぐ帰ろう!!お疲れ様でした!!」と逃亡しようとするヴェノムと「おいおい、俺達は一つだろ!!お願いだから出てきてよ~」
という息のあったドラえもん風コントも披露。

カーネイジも影響を受けてところどころボケるので最終決戦は世話焼きの海苔の佃煮VSこじれたいちごジャムという調味料ギャグバトルになっていた。

最終的に宿主との連携が崩れてきたカーネイジに、「二人の絆の強さ」で勝つという展開はまさに「どんなに困難でくじけそうでも、必ず最後に愛は勝つ」だった。

エンドクレジットでマルチバースでMCUの世界線に飛ばされて、話題にもなったが、飲み屋で酔っ払っていただけで、また元の世界に戻っていたことが発覚。
サノスとの戦いの裏でマジで何もしなかった彼らはファンはからも製作からも愛されていた。

戦闘も広大なストーリーもいらない、ただ二人がだらだら喋ってて欲しい。

そのため本作「ジ・ラスト・ダンス」の先行上映や試写を見た人の反応が軒並み薄かったのを見て「最後でスベるのもあの二人らしい」と逆に期待値があがった。

今回はシンビオートに幽閉された邪神ヌルが放つゼノファージという怪獣と対決。

ヌルが世に出るためにはコーデックスというものが必要らしいのだが、そのコーデックスとは「シンビオートと寄生体が一つになった時に生まれるもの」らしく
「なんやねん、それ」というエディに対して「俺らの間にあるで、俺らあの日「一つ」になったやん」としれっと応えるヴェノム・・・狙ってるやろ。

とにかくラブラブっぷりが原因で命を狙われることになるのだった。

ヌル以外にもエリア51に幽閉されていた他のシンビオート達の存在など、過去最大のスケールの話なわけだが、エディ&ヴェノムはカジノで大はしゃぎしたり平常運転。

ただ大自然を見て「永遠にこうしていたいね」と漏らしたり
夜中の車中で「ずっとこんな時間が続くといいんだけどなぁ」とヴェノムが卒業旅行中の学生のようにセンチメンタルだったのはシリーズ最終作だからだろう。わかりやすかった。

しかし、ヴェノムの「ずっとこんな時間が続くといいんだけどなぁ」という願いはむなしく、別れが来る。

涙を流し合ってお互いへの感謝を口にしあうことはない。
あれだけイチャイチャしていたのに会話は少ない。

エディもヴェノムもお互い別れを覚悟しているからだ。男の悲しい性だろう、最後はカッコつけたい。

1作目でのヴェノムの「俺は負け犬だけど、”俺達”は違う」という言葉を思い出して思わず涙がこぼれた。

「愛情」や「友情」という言葉だけでは簡単に説明できない「絆」は確かに存在する。

マイケル・ダグラスのためにマシンガン片手に敵にアジトに駆けつけた「ブラック・レイン」の健さんのように

友達のためにジャミロクワイのダンスを踊る「ナポレオン・ダイナマイト」のように

「新しき世界」で潜入捜査官であるイ・ジョンジェの正体をわかった上で彼の将来を気づかうヤクザのファンジョンミンのように・・・

男女の恋愛でもない、ましてや人同士でもない、おっさんと海苔の佃煮の美しい「絆」が確かにそこにあった。

1作目の時には怒涛の展開に爆笑していたが、「おまえは負け犬。俺も負け犬だけど、”俺達”は違う。」という言葉がシリーズを通してとても深みがあり美しい言葉に成長していた。

小汚い二人の素晴らしい愛の終わり。

シリーズ恒例の長すぎるエンドロールも今日は涙をぬぐうのにちょうどよかった。

憎しみの絶えない現代だが、海苔の佃煮があれだけの事を出来るのであれば、我々人類も、もっと周りを思いやるべきではないだろうか。

正直、こんなに熱く語るような映画ではないとは思う。色んなところがガタガタしているし。
何ならこの記事を読み直してなんでこんな映画にここまで真剣に書いているのかと恥ずかしくなった。

ただ言わせて欲しい

理屈じゃねぇ!!とんでもなく感動した。それが全てなんだ。

あっ、ゼノファージだけでなく、トキシンなどシンビオート佃煮軍団も登場、アメコミファンなら嬉しい要素もたくさんあるんだけどもう少し冷静になってから味わうようにします。

最後にエディもヴェノムへの思いがわかる最上級の言葉を送っています。

「(宇宙人を怖がる子供に)宇宙人はいるよ。でもその宇宙人は俺の大親友なんだ