忠夫のようにチャラく生きるか、神宮司大佐のように不器用に生きるか。
東宝特撮史上「非情な現実(リアル)」を突き付ける作品。
【はじめに】過去に東宝怪獣コレクションでもお世話になったデアゴスティーニさんのPR案件です。(いっとぅんさん、今回もご紹介頂きありがとうございました。)
2009年から2012年にかけて発売されていた「東宝特撮映画DVDコレクション」が今年10数年ぶりにリニューアルされました。
隔週刊 増補新版 東宝特撮映画DVDコレクション | デアゴスティーニ公式
私自身、ゴジラ関連のDVDは「東宝特撮映画DVDコレクション」で集めていました。
創刊された2009年頃は東宝特撮作品のDVD、ブルーレイは1枚5,000円くらいと高価。まだサブスクでの配信もなかったので、観たくなると近所のTSUTAYAで借りていた。
1作品あたり2,000円ほどで購入できるこのシリーズはとてもありがたいものでした。
リアルタイムで購入したものもあれば、後ほど中古で揃えたりして非常にお世話になりました。
この度リニューアル版の最初の5号をサンプルを頂けるという事でとても楽しみにしていた私。
最初の5枚は何だろう?持っていないものが届くといいな。とデアゴスティーニさんから届いた箱を開封したところ
1号「ゴジラ(1954)」・・・所有済。
2号「シン・ゴジラ」・・・今回のリニューアルで追加された作品。ただ、ブルーレイを所有済。
3号「モスラ対ゴジラ」・・・未所有。
4号「海底軍艦」・・・・・・所有済。
5号「三大怪獣 地球最大の決戦」・・・所有済。
モスゴジのデザインは好きだが、子供の頃から試合結果に納得がいかない「モスラ対ゴジラ」以外は所有済でした。
正直、残念だけど、作品解説や当時の販促物などが紹介されている冊子は前回からもアップデートされて読みごたえはある。そもそもご厚意で頂いたのに残念がるとか失礼な話。
ただ・・・・・
「海底軍艦」については2年前に中古にも関わらずそこそこ良い値段で購入した過去がある。
しかも、「ゴジラシリーズと同じくデアゴスティーニで揃えないと」と思ってわざわざ旧「東宝特撮映画DVDコレクション」版を購入していた。
この度リニューアルされた「東宝特撮映画DVDコレクション」は2009年時より安い1,799円
この急激な物価高の中でコストを抑えた企業努力はすごい。
ただ俺の脳裏に最初に浮かんだことは
「リニューアルするんやったら先言えや。俺が中古で買った値段より遥かに安いやんけ」だった。
というわけでなかなか記事を書けなかった私。
せっかくサンプルを頂いたのにあまりPRできておらず「さすがに人として終わってるな。」と深く反省し、今月ついに「海底軍艦」が発売されたので紹介したいと思います。
ドン・フライも搭乗した東宝が誇るバトルシップ「轟天号」のデビュー作である本作は、戦後を認めず未だ大日本帝国のために戦う軍人、神宮司大佐とかつての上司、娘との人間ドラマが渋く、一般的にも評価の高い作品ですが、私個人としても東宝特撮映画の中でも屈指の「考えさせられる作品」と強くおすすめします。
普段「初代ゴジラ」や「シン・ゴジラ」について論じている特撮オタクを「めんどくさい」としか思っていない私ですが「海底軍艦」については本作が持つ現代にも通じるメッセージについて考察させて頂きたく。
まずオープニングから普通の特撮映画と一味違う。
場所は、深夜の港。
なんとグラビアアイドル(北あけみ)の写真撮影シーンから始まる。
このグラビアアイドルだが、ヒョウ柄のビキニと攻め過ぎている。
「海底軍艦」は1963年の作品。62年も前の作品だが、今の時代で考えてもこれはエロ過ぎると思う。
東宝の特撮ということで、海や火口から怪獣が出てくること期待していた当時のちびっ子達の目にはどう映ったであろうか。
性的に目覚めてしまった男子は少なからずいるはずだ。そういう意味で本作のヒョウ柄ビキニは罪深い。
なお、このグラビアアイドルを撮影する広告代理店のカメラマン、旗中を演じるのは高島忠夫。
言わずもがな高島ファミリーが出演している東宝の特撮作品はクオリティの高さが保証される。
安心して続きが観れるのはありがたい。
海上から出現する全身銀色の不審者はムウ帝国からの刺客だった。
後日、ムウ帝国から送られてきた脅迫フィルムによると、1万2千年前に海底に沈んだムウ大陸を支配していたムウ帝国は、地熱を資源とする科学力で今も健在であること。
ムウ帝国の朝礼。
旧帝国軍による「海底軍艦」の建造中止と、かつては自分達の植民地であった全世界の返還を要求してきた。
ひとまずフル無視した国連だが、その結果、世界各国の港、貨物船が襲撃される。
日本の首脳陣は元大日本帝国海軍の将校で現在は海運会社の専務を務めている楠見に「海底軍艦」の出動を要求するが、楠見はそもそも海底軍艦が作られているか不明。さらに元部下である神宮司が反乱を起こして消息を絶ったことを告白する。
なぜムウ帝国が「海底軍艦」の存在を知っているのか?
時を同じくして、警察に捕らえられた不審者は当時の神宮司の部下だった天野だった。
神宮司が生きている。どこかで!?
と存命を知った楠見、楠見の秘書であり神宮司の娘でもある真琴、真琴目当てで近づいてきた忠夫は神宮司がいる秘密基地がある南国に向かうことにする。
神宮司は終戦から十数年経った今でも大日本帝国の再興に向けて海底軍艦「轟天号」を完成させていた。
完成した轟天号は海上のみならず、潜水、航空も可能。
瞬時に対象を凍結できる冷線砲や12門の電子砲塔、帯艦電撃、何より前方に大きなドリルがついているのでカッコいい。
これは絶対強い・・・・。
楠見はムウ帝国を討つために、轟天号の出動を要請するが、今も日本軍人の志を持つ神宮司は拒絶する。
家族も捨てて大日本帝国再興のために生きる神宮司大佐と、かつては日本軍の少将だったが今は会社役員である楠見とのやり取りは本作一の名場面だ。
楠見「「少将」と呼ばないでくれ。古傷に触られるのはたまらん。」
神宮司「古傷ですって!?、少将は変られましたな。あの頃の気持ちはどこにいったんです?」
楠見「戦後20年という時間が我々に考える時を与えてくれたんだ。」
神宮司「じゃあ海底軍艦は無用の長物だというんですか!?」
楠見「違う、世界のために使えと言ってるんだ!!」
神宮司「日本のために海底軍艦で世界を変えます。」
楠見「世迷言はやめろ!!」
神宮司「祖国を愛する心を世迷言と言うのですか!?
神宮司は悠久の大義に生きる信念です!!」
この神宮司大佐、確かに時代遅れかもしれない。
ただ、祖国のために愚直に自身の仕事を続けてきた筋の通った男だ。
飲み会で「彼氏とはやってんのか?」とセクハラ発言するおっさん達のような「時代遅れ」とは異なる魅力がある。
この軍人像は後の機動戦士ガンダムにおけるジオン軍の士官たちにも強く影響を与えたはずだ。
そんな古き良き男、神宮司に水を差すのが、当時の「戦争を知らない」若者である、我らが高島忠夫だ。
20年ぶりに再会した娘に対してもそっけない神宮司に対して「戦争キチ〇イ」呼ばわり。
理由がどうであれ初対面で「キチ〇イ」呼ばわりする忠夫は、政宏にも政伸にも見せられなほど終わっているのだが、大佐はキレずに耐える。
その後、神宮司大佐は娘である真琴からも「大嫌い、会わなければよかった!!」と言われてしまう。
祖国の再興のために全てを犠牲にして生きてきたのに。
さすがに傷つく神宮司大佐に忠夫が追い打ちをかける。
「豪天号は「キチガイに刃物」なんですよ!!」
これでもかとボロカスに言っている忠夫だが、へらへらしながらビキニ姿のグラビアアイドルを撮影していた広告代理店の男だし、現在同行しているのも真琴へのナンパ目的だ。
さすがに忠夫の事は1,2発殴っても良いと思う。
その後、ムウ帝国は真琴と忠夫を拉致。丸の内を陥没させたため、ついに神宮司と轟天号は立ち上がる。
ムウ帝国の守護竜マンダが立ちはだかるが、迷いを捨てた轟天号の敵ではなく瞬殺。
勢いがついた轟天号は地下のムウ帝国に殴り込み。時間にして5分くらいでムウ帝国を滅亡させるのだが、ここでは割愛する。
本作の主題は戦後の軍人の生き方でも轟天号でもない。
62年も前の作品にもかかわらず、
「硬派な男よりチャラいやつの方が人生うまくいく」という世の非情さを特撮というフィルターを通して叩きつけている。
本作の忠夫は広告代理店のカメラマン。
劇中描かれていないが、おそらく、一般的な社会人より年収も高いだろうし、芸能界とのつながりもあるだろう。
業界人をちらつかせて冒頭で撮影していたグラビアアイドルのような若い女の子に手を出しているに違いない。
実際、旧日本海軍でもなければ、ムウ帝国の関係者でもない人物なのに、「街で見かけた真琴がかわいいのでモデルにする」という理由で接近。
そのまま一行に混ざるわけだが、劇中での真琴への距離の詰め方がエグい。
現実世界でも必ず狙っている子の近くを維持するのはチャラ男の定理だが、それだけではなく忠夫は確実に真琴の警戒心を解きながら近づいている。
終盤でついにボディタッチが始まり、エンディング間際ではこの状態だ。
これは「手を出そうとしている」ではない。確実に手を出される。
かたや神宮司は男としては魅力的だが悲しいかなモテないし、社会的にも「柔軟性が足りない」と評価されないものだ。
今もこの世界のどこかで忠夫みたいなチャラ男が芸能人も参加するバーべキューで新人のアイドルの乳をもみ、神宮司のような男は駅の立ち食いそば屋でおにぎりも追加するか我慢するか悩んでいるだろう。
だからこそ、フィクションである映画の中でくらい神宮司には忠夫をボコボコにして欲しかった。
できれば豪天号のドリルで忠夫の股間に穴を空けて欲しかった。
神宮司が戦うべきものはムウ帝国ではなく、自分の娘に手を出している忠夫だったのに。
普段は怪獣の登場にアホ面で大喜びする私だが、「海底軍艦」はそれこそ「初代ゴジラ」以上に考えさせられる作品なのだ。
2025年に復活した「東宝特撮映画DVDコレクション」。
今回新たにラインナップされた「ガンヘッド」は絶対に欲しいし、なかなかサブスクでも配信されることのない「ヤマトタケル」や「マタンゴ」「フランケンシュタイン対地底怪獣」あたりは買います。
ビーパワーでは神宮司大佐のような不器用なおっさんを応援します。