~ここにヒーローはいない!!情け無用のSFバイオレンス・アニメ!~
人間、日常に疲れてしまうと楽園を求めてしまうものだ。
特にアニメで言うと、冴えない俺の家に、ある日美少女達が大挙して同居する。
彼女たちは自分を否定しない。
夢や希望に一直線の彼女たち。
もちろん、自分以外に異性の影なんてもんはいない。
常に目の前で微笑ましくキャッキャッする。
そういう楽園が描かれがちである。
だが、あえて言わせて頂きたい。
そんなもんはねえ!!
ここ(現実)は戦場だ!
そういう気分にしてくれるご機嫌な(俺にとって)なアニメがある。
それが80年代に制作されたアニメ、装鬼兵M.D.ガイストである。
この装鬼兵M.D.ガイストですが、80年代に発売されたOVA。
早い話がアニメのVシネですな。
まさに知る人ぞ知る・・・というか、知ってる人がいるのかしら・・・
と、思わず遠い目になってしまう作品である。
事実、俺も最近見たわけですが。
まあしかし、なんでよりによって30年近く前のアニメを今更取り上げるのか?と言われる人もいる事でしょう。
何故なら、最近のアニメにはないものがあったからだ。
それは牙!!
間違いなく牙がある!
そう言い切りたくなるアニメなのだった。
◇世界は永遠の戦場さ◇
西暦が終わりを告げて数百年。人類は宇宙に進出し、様々な惑星へとたどり着き、自らの力で統治していった。
しかし、戦争の炎は消えることはなく、この惑星ジュラも例外ではなかった。
・・・と、ざっと書いてみても、どっかで見たことある・・・ていうかボトムズじゃねえか!と言いたくなるあらすじから幕を開ける本作。
だが、甘く見てはいけない。
カッコいいパワードスーツが出てきたと思ったら、次の瞬間に人が臓物を飛び散らせながら死ぬ!
スターシップトルーパーズばりの人体破壊が描かれるのだった。
あるいは荒野を北斗の拳みたいなチンピラがバイク爆走している最中、頭が吹き飛ばされる。
もう自分を肯定してくれるイノセントな美少女なんてもんはいない。
もう生きるか死ぬかの世紀末的様相を呈している。
◇地獄に落ちた戦士たち◇
竹を割ったような戦闘狂。
それが今作の主人公、ガイストである。
主人公の声が若本規夫というのも合点がいく。
三度の飯より戦闘が大好きな、この男。
バイオクロン原理という、よく分からん原理によって生み出された正規軍の超人兵士であった。
その名もM.D.S(モーストデンジャラスソルジャー)!!
どれ位デンジャラスかというと、冒頭からライフル一丁で飛行機を落とす、という桁外れのデンジャラスさであった。
しかし、あまりのデンジャラスぶりに軍からはそっぽを向かれ、島流しより高度な宇宙流しの刑にあうガイストであった。
そんな彼氏が囚われていた宇宙衛星が、ある日ジュラへ墜落。
全裸で惑星ジュラに降り立ったガイスト。
おそらく核戦争でもあったのだろう。
周りは荒廃した街。
空も曇り空だ。
普通であれば嫌な気分になりそうなもんだが、「派手な花火をあげたようだな・・・(cv.若本紀夫)」と嬉しそうに呟くガイストであった。
・・・という訳で、クビになっても気分は正規軍なガイスト。
手始めに地元の暴走族に殺された兵士の鎧を横取り!
案の定、喧嘩を売られ、よせばいいのに「お前らみたいなゴミにはいらない代物だ。」と逆切れをかますガイストであった。
結果、ファイナルファイトのダムド似のリーダー的存在にタイマンのステゴロ喧嘩を売られ「ルールは?」と尋ね、
「殺す!それだけだ!!」と破壊王橋下ばりの答えを聞くと両腕を速攻ナイフで両断!
「てめえ・・汚い・・」という言葉を全部聞かずに頭へナイフをブッ刺す。
ドン引きする暴走族。
そんな面々を尻目に、無言で死んだ兵士から装備していた鎧を脱がしにかかるガイストであった。
気か付けば暴走族のリーダーになっていたガイストだったが、ある日正規軍がパワードスーツのネグスクローム軍に襲われている光景に遭遇する。
明らかに劣勢の正規軍。
普通であれば見なかったことにするもんだが、ガイストは違う。
「強者の方につくばかりが金儲けの論理じゃないのを教えてやる」
とバイクで爆走しながら生身で次々とパワードスーツを破壊!
またまたドン引きする暴走族であった。
・・・と、二度も暴走族をドン引きさせるハードな寝起きを実行するガイストなのだった。
この手のダークな主人公だと、それなりに多少の心の触れ合いや、取ってつけたような葛藤があるが、ガイストに、そんなもんは一切ない。
例えばヒロインが色仕掛けを迫ろうもんなら「俺が欲しいのはお前の頭の詰まっている情報だけだ。それから下に用はない」と髪をつかんでスローイング!
もうニヤニヤするのは人を殺している時か、戦闘の準備をしている時だけ、という。
おそらく、同じ職場にいたら嫌でしょうがない気分になるであろう。
軍をクビになったのも納得できる。
◇何もかも滅びるだけさ◇
こうして正規軍をなりゆきで助けたガイストであったが、聞けば彼らは、ある作戦の為に彼の地へ来たらしい。
それはプログラムDの阻止。
詳しく話を聞くと、いよいよ正規軍が劣勢になった時発動するプログラムらしく、惑星の戦闘用ドロイドが全て起動し、区別なく人間をブッ殺し死の惑星へと変えるというプログラムなのだった。
このヤケクソにもほどがある報復システムを止めに行くのが正規軍の任務だという。
しかも止めに行くためには無数のドロイドを撃破しなければいけない。
確実に死ぬる任務へ早速参加を希望するガイスト。
『仏の顔も三度まで』ということで、ドン引きを越えて愛想を尽かした暴走族は戦艦を降りる。
しかも、頼りの正規軍も連日続く戦闘で疲弊していた。
ガイストを除いては。
徹夜が決定した職場のようにモチベーションもダダ下がりの正規軍。
「それでも名誉ある正規軍のファイテックス部隊か!」と指令であるクルツが激を飛ばすものの、全く士気があがらない。
すると、パクった鎧を装着したガイストが姿を現す!!
「おおっ!」と目の前で新垣結衣が全裸になった位の勢いで感嘆の声を上げる正規軍の面々。
「さあ、行こうか。」
名作ワイルドバンチでもそうだが、死地へ向かうのに余計な言葉はいらないを実践した名シーンである。
ここから鎧を着て張り切るガイストだったが、自らの楽しみを優先する余り、次々と死んでいく正規軍。
その場の勢いで返答しちゃいかんなあ・・・と散っていく正規軍を見ていると思ってしまう。
そして衝撃のラストのセリフ、「俺のゲームは終わっちゃいない。これから始めるんだ。」
・・・と完全に正気を失ったガイストの瞳がアップで写される。
絶叫するヒロイン。
誰かに自分を理解してほしい訳でもなく、ましてや群れるわけでもない。
結局、この男にとって、生の実感めいたものは死と隣り合わせの戦いでしか感じられない、という、この隔絶感。
そして、見るものへの突き放しっぷり。
世界的にはアレだが、ガイスト的にはオールOK!なラストである。
色々、冷静に考えれば「そういや、コイツはこういう奴だったなあ・・・」と思い知らせてくれる。
ここからジャーンと流れる、影山ヒロノブが熱唱する「炎のバイオレンス」(のっけから『ここは永遠の戦場さ~♪』と始まる)
カタストロフの始まりが予感される中、刀一本を持ってニヤリと笑うガイスト。
以上、ネタバレ・・・というか殆ど見所を語ってしまった感が否めない。
だが、これほどの傑作(俺にとって)にも関わらず、日本では尖りすぎていたが故に全然ヒットしなかったらしい。
現在、DVDは国内では出ておらずVHSのみ、youtube辺りでしか見れない。
しかし、アメリカあたりでは大層ヒットしたらしく、海外出資で続編「M.D.ガイスト~デスフォース~」(ガイストが案の定、世界を救う作戦をぶち壊す傑作)も制作されたのだった。
で、最初の話に戻るが、アニメに限らず映画であれ音楽であれ、楽園を求めるのも、それはそれで詮無き話だとは思う。
俺だって、そりゃあ楽園に行きたいですよ。
しかし、それだけが心の中にあっても、生きていけない。
人はパンのみにて生きるにあらず。
現実は非情だ。
群れず、媚びを売らず、誰かに分かってくれとも思わない。
最終的には世界すら滅ぼしかねない狂気。
今から30年以上前のアニメではあるが、そんな現実と戦うために必要な牙が装鬼兵M.D.ガイストにはある。
なんやかんや昔より理解は示されてるにしても、未だ蔑称として語られがちなアニメオタクではあるが、今こそ牙を持つべきなのではないだろうか?と思わせてくれるアニメでしたよ。