「プライベートライアン」より悲惨「ハクソー・リッジ」感想(ネタバレなし)

ミリタリーが好きな事もあって子供の頃から戦争(特に第二次世界大戦)が大好きだ。

その流れで沖縄戦について調べて子供心ながら悲惨過ぎて気が重くなったものだ。

中学生の頃に初めて沖縄に旅行に行った際に、南国感にあふれていて飯もうまい沖縄が好きになる一方でひめゆりの塔などに行って「本当にこんなリゾートみたいなところで戦争があったのか?」と事実なのだがイメージできない不思議な気分になった。

日本で唯一戦場になったことや民間人の死者(家族全滅もたくさんあった)が多かった事、本土の沖縄への差別等で戦争ものの中でも扱いにくい沖縄戦だが、この度メル・ギブソンが監督で「ハクソー・リッジ」が公開された。



アカデミー賞を2部門受賞した事もあり公開初日に早速観た。

ストーリーとしては第一次世界大戦でPTSDになった親父を持ち、キリスト教の教えに従い銃を持たず衛生兵として活躍したデズモンド・ドスの実話を描いたもの。

銃を持とうとしない事から訓練中に仲間からリンチされたり軍法会議にかけられるなど国家レベルでいじめを受けるドスだったが、「人を一人でも助けたい」という気持ちから沖縄にて敵味方関係なく瀕死の兵士を助けるため死体と爆撃だらけの戦場を駆け巡る。

民間人の虐殺といったところは一切触れていないが、これは映画としては正しいと思う。今後何百年経っても戦争についてはそれぞれの言い分があるし戦争自体を正当化はできないだろう。

その点でドスの狂った環境の中で自分の信念を曲げず良心を貫いた姿だけに焦点を当てたのは余計な感情が入らず純粋に映画を楽しめたしドスの行動には感動するものがあった。

ハリウッド映画でよくある「アメリカは頑張った」的な美談にすることもなくひたすら悲惨な戦場を描いたところはさすが私生活は終わっているが監督としての才能はすごいメル・ギブソンだ。

悲惨な戦争描写という点では「プライベート・ライアン」が有名だが、「ハクソー・リッジ」はあれを超えていた。

飛び散る肉片や内臓はもちろん、死体に群がるウジやネズミ。そして何よりもえぐすぎる戦闘シーン。

上半身だけになった仲間の死体を盾替わりにして突っ込む。相手の体で手りゅう弾を覆ってよける。瀕死の人間を銃剣で刺す。
普段からエグいアクションは好きだが、実際にこんな戦いがあったのだろうなと思うと寒気がする。

死んだじいちゃんが生きていた頃によく戦争の話をしてくれた。
(じいちゃんは2回戦争に行って終戦間際は8割以上が戦死したフィリピンで生き残った)

話している内容は悲惨なのだが、じいちゃんが飄々とした性格だった事もあり、じいちゃんの戦場話はめちゃくちゃおもしろかった。

「毎日、爆撃されたり機銃掃射されてみ?疲れてるのもあって誰もよけへん。みんなもう死んでもええわーって思うようになる。」
「便所で手榴弾持って自殺した奴がおって、あの時の便所掃除は人生で最悪やった。」
「ウジが湧いた死体ほどきついものはない。」
「毎日誰かが死んでると「あいつは運がなかった」と思うようになってくる」
「捕虜になった時にアメリカの飯がうまくて食後にコーヒーとタバコも出してくれた。それまでジャングルでバナナと乾パンだけで過ごしてたから、なんでこんな勝てるわけない戦争してたんやろって思った」

その話を聞いていただけに「ハクソー・リッジ」の完全に人としての何かを失っている日本兵がとても納得できた。

実際、米軍では沖縄戦の参加者が一番PTSDにかかっていたらしい。

死を覚悟で襲ってくる日本兵の姿は本当に恐ろしいものがあった。

フニャフニャした喋り方のアンドリュー・ガーフィールドが涙を堪えて走り回る姿は胸が熱くなったし、いつのまにかサム・ワーシントンが渋くなっていた事等他にも書きたいことはあるが、映画史上に残る悲惨な戦場は今後語り継がれるレベルの内容だし、是非とも観て欲しい。

ハクソーリッジ(前田高地)がある沖縄県浦添市のホームページで記事が素晴らしいので是非ともご覧ください。関心を持つことが風化させない大切な事だと思う。

http://www.city.urasoe.lg.jp/docs/2017050200104/

最後に少しだけ不謹慎になるが、映画が観終わり悲しみがこみ上げてきたのは、じいちゃんと「ハクソーリッジ」の事で話せないからだ。

「プライベート・ライアン」を観て「ここで戦わなくてよかった」

「シン・レッド・ライン」を観て「もう少し俺らは頑張った」

と一人の退役軍人という視点で感想を言っていたじいちゃん。

風鈴を買ったけど「耳が遠い事忘れてた」と言って風鈴を耳の前に当てていた。

俺が東京でホームシックになっていた頃「東京はフィリピンよりマシやからもう少し頑張り」とスケールの違う話をしてくれた。

風邪を引いたとき「マラリアの時はひたすら寝たら治ったで」と全然参考にならないすごい話をして心配してくれた。

阪神大震災の時、揺れが収まった途端に掃除を始めていた。

子供の頃に黙ってスーパーファミコンやゴジラの人形を買ってくれた。

嫌な事があればすぐにじいちゃんに会いに行った。ずっと話を聞いてくれた。

末期がんになった時、死ぬ直前まで「大丈夫やから先に家帰っとき!!」と優しかった。

最後まで優しくて強いままでいてくれたじいちゃん。91歳だったのでかなり長生きしてくれた方だが、死んで7年経っても寂しい。(今調べてわかったがデズモンド・ドスと同い年だった。)

映画以上にハードな内容をおもしろく話してくれたじいちゃんなので「ハクソー・リッジ」を
一緒に観たら絶対におもしろかったと思う。

遺骨の前にパンフレットを置いておこう。