犬が西向きゃ尾が東になるように、 ジャッキーが映画の中で笑顔になれば見てるコチラも笑顔になる。
だが、そんなジャッキーが死んだ目で復讐に挑んだら、 どうだろう?
まさにコペルニクス的発想のジャッキー映画ーーそれが現在公開中 の「ザ・フォーリナー/復讐者」だ!
ジャッキーといえばアイドル以上にバキバキの笑顔で知られている が、今回はコミカルさを徹底して封印。
愛娘をテロの巻き添えで爆殺された元特殊部隊のジャッキーが、 煮え切らない政府に業を煮やし「こうなれば俺が裁く!」と、 ひたすらゲリラ戦法でピアース・ブロスナンに嫌がらせ( 主に爆破)を仕掛けて犯人を問い詰める。
まさに内容はハードコアなジャッキー版「君の名は」なのだった。
アイルランド情勢、 政治組織の内ゲバなど社会的なテーマを匂わせつつ、 それらのポリティカルな要素をワンマンアーミーなジャッキーが「俺の知ったことか」 とガン無視で翻弄していく。
理不尽な悪に対してジャッキージャスティス(略してJJ) が爆発するという初期作品のようなアプローチだが、 本作が異色なのはとにかく怖い。
ジャッキーが。
一見するとうだつの上がらない小市民だが、 いざ復讐となると鬼ジャッキーへ変貌!
身も心も死に復讐に取り憑かれたジャッキーが終始徹夜明けの表 情で『今殺りに行きます』 を地で行く演技、泥臭いバトルを俺たちに見せてくれる。
あるいは森の中で傷だらけの体を晒して、 さめざめ泣く。
何せジャッキーが泣くのだ。
俺も泣かずにはいられるか!という話だ。
それはそれとして、本作のジャッキーは底無しの怨みと悲哀に満ちている。
我々の知る、お茶の間に親しまれたジャッキーは、そこにはいない。
神出鬼没に現れては死んだ目で「犯人に名前を教えろ」とピアースブロスナンを詰める。
もう、ジャッキーの怖い話みたいな様相を呈してくる。
恐らく『いつものジャッキー』 を期待した人は見た後に夢でうなされる勢いだ。
おかげさまで対立する側からしたらホラーでしかない復讐模写は、思わず見るものを震え上がらせる。
今までのジャッキー作品でも少なからず復讐、 あるいは仕返しに挑む作品はあったが、 なんやかんや喜怒哀楽の表情が豊かであった。
だが本作は怒と哀しかない。
夜、枕元に立ってほしくないナイトメア・ ジャッキー作品として本作はNo. 1だ。
思えば命知らずのスタントを連発していたジャッキー。
ファンにとって恒例のNG映像… 特に初期作品のエンドロールでは、 よく見るとジャッキーの目が笑っていない場面が見受けられた。
本作の心が死んでいる亡霊のような佇まいは、映画人生において生と死のギリギリの修羅場を経験してい たからこそ出来た演技だったのではなかろうか。
今までのジャッキーのイメージを逆手に取った本作。
最近では『新宿インシデント』の重過ぎるストーリーで観客をドン引きさせたが、今回は程よくダークなジャッキーが成立している。
おかげさまで劇中のピアース・ブロスナンが揺さぶりを食らうように、 ジャッキーの新境地は見るものの感情を揺さぶりにかかる。
そして修羅全開で復讐を炸裂させた果てにジャッキーが見つ けたものが何なのか…
是非、劇場で見届けて欲しい。
また、ジャッキーといえば自らの歌をエンディングにブチ込んでくるのが常だが、本作でも『普通人』を披露。
「あ、そこはいつものジャッキーなんだ!」と驚くと同時に何故か安心したのだった。
ともあれ、今までコチラを笑顔にしてきたジャッキーの悲哀と殺気を感じられ る、良い意味でジャッキーのイメージを裏切ってくれる映画ですよ。