新たなる『明日から真似したくなる黒人』伝説の始まり!クリード~チャンプを継ぐ男~

「生まれて、すみません」とは人間失格における太宰治の言葉であるが、この言葉がどうにも腑に落ちなくてですね。
例えばですよ、これを聞かされたのが…ロッキーだったら、どうだろうか?

恐らく、こう返すだろう。

「今まで辛かったこと、悲しかったこと…全部ぶつけろ!お前のリングで!と。

 

もう四の五の言わずに朝5時から隣町までランニング、ニワトリを捕まえさせて試合に行かせるだろう。
 
という訳で、今回は『クリード~チャンプを継ぐ男~』について更感満点で御紹介したいと思います。
 
ロッキーの盟友アポロについては、以前書いたココを参考してもらえばと思いますが(参考になるのか!?)、公開当時、ほぼ同じ時期に『スターウォーズ~フォースの覚醒~』も劇場で上映が始まり、まさかのロッキーとスターウォーズの一騎打ちの様相を呈したのは記憶に新しい。
「フォースの覚醒も良いけど、それはそれとしてアポロの覚醒も重要だろう!」とタッグパートナーのデップ―さんと騒いだものだが、そんなロッキーバカは俺たちくらいしかいないのだった。
ともあれ全ロッキーファン、そしてアポロファン必見の作品なのは間違いない!
2年前――真冬の寒空の下、スターウォーズのコスプレファンに負けないように、俺も寸足らずのタンクトップおよびットすぎるホットパンツのコスプレで劇場へ駆け込んだのだった。
 
 ↑捕まるよ!

 

そんなクリードの気になるあらすじ。
 
アポロの隠し子として生を受けたアドニス・クリード。
物心ついた時にはアポロの愛人である母親は病気、そして肝心の父親も生まれる前にリング禍で死別するハードな出生を抱えていた。
今日も今日とて、みなしごハウスで喧嘩三昧の荒んだ日々を送るのも無理のない話であった。
そんな荒れる彼を迎えに来たのがアポロの本妻、メアリー・アンであった。
さすがアポロの妻、天井知らずのブラザー精神でアドニスを自分の子として迎え入れる。
こうして、みなしごから良い家のお坊ちゃんになったアドニス。
謙虚かつ誠実に育ち、今では大企業に就職。
何不自由のない生活を送れるようになった。
普通であれば「ラッキーだなあ!おい!!」と思うもんである。
だが彼に流れるアポロの血は平穏な生活より、ボクシングを求めていた。
という訳で、暇を見つけてはメキシコまで出向き野良試合に興じ、家ではyoutubeで亡き父親の試合を流してはシャドーボクシングに勤しむ日々。
もうボクサーになりたくて、なりたくて仕方ないのは明白であった
遂に自分の気持ちを抑えられなくなったアドニスはボクサーとして身を立てるのを決意。
返す刀で最近給料の上がった会社へ辞表を出して電撃離脱!
メアリー・アンの「ボクサーなんか辞めとけ!」という言葉をスルー、ほぼ勘当を言い渡され、かつて父親の在籍したジムの門を叩くのだった。
しかしジムへ行って速攻、「お前、金もあるしボクシングなんかする必要ないじゃない」と門前払いをくらってしまう。
この対応にカチンときたアドニスは「じゃあ一番強い奴を倒せば入門認めろよ!」と悪い意味で煽りに弱いアポロの血が騒ぎ、自家用車を賭け野良ボクシング殺法で挑むものの、そこは自己流。
あっけなく返り討ちにあってしまうのだった。
 
 
いよいよ行くところが本格的に無くなったアドニス。
彼の脳裏に浮かんだのは、かつての父の盟友にして、伝説の元世界チャンプ=ロッキー・バルボアその人であった。
 
 
早速、地元カリフォルニアからフィラデルフィアへ向かい、ロッキーの経営するレストランへ出向くアドニス。
店じまいの時間に押しかけ「俺はアポロの息子だ。つきましてはボクシングを俺に教えてほしい」と師事を乞うのだった。
しかし「俺はもうボクシングから手を引いた」と丁重に伝えるロッキー。
 
だが、持ち前のブラザー精神、何よりボクシングへ打ち込む愚直な姿勢を見るにつけ根負けしたロッキーは専属トレーナーとしてアドニスへボクシングを教え込むのだった。
ロッキー流の過酷な練習を重ね、着実に実力をつけていくアドニス
遂に迎えたデビュー戦も相手を2ラウンドKOで決めるアドニスであったが、自分がアポロ・クリードの息子であるのがバレてしまう
そこに目をつけたのが無敗の世界チャンピオン、コンランであった
かつての自分の境遇を重ね「噛ませ犬だ」と試合のブッキングを渋るロッキーだったが、思いもがけないチャンスへ己のボクシング人生を懸けるアドニス。
こうして更に過酷なトレーニングが始まろうとした矢先、ロッキーが病に倒れてしまう。
病名は癌。
かつての妻エイドリアンの命を奪った病気に、シリーズ恒例ではあるが、すぐ凹むロッキー
一方、挑戦を受けたものの、己の「アポロの隠し子」としてのクリードの名に複雑な気持ちをアドニスは抱いていた。
敵はボクシング世界チャンピオン、そして癌。
ロッキーとアドニスの二人は、最大の敵=「自分」を倒すことができるのか?
今、運命のゴングが鳴り響くのだった。
 
 
今回、亡き盟友アポロの息子にボクシングを叩き込むロッキー。
こう聞くとロッキーが一方的に説教するような内容を想起する人もいるかもしれんが、そうではない。
かつてソ連の山を軽装で駆け上り、朝方に生卵を飲み下したのも今は昔。
今では移動はもっぱら仕事用の汚いバン、朝の生卵もしっかり目玉焼き
前作で存命だった歩く瞬間湯沸かし器ポーリーも今では天に召され、気が付いたら息子とも疎遠になっていた。
かつての大事な人たち=エイドリアンとポーリーの墓へ行き一人孤独に話しかける日々。
そんな天涯孤独のロッキーが、同じように孤独なアドニスがボクシングに打ち込む姿を見て自らの闘魂を取り戻す。
どんだけ闘魂を取り戻すかと言えば、癌でキツそうな模写を入れつつ、話が進むにつれ、どんどんロッキーも元気になってしまうほどだ。
病とリングは別にしても「二人で戦う」展開が、かつての名作ロッキー3を彷彿とさせる。
 
 
 
 
 
そしてアドニスである。
劇中、育ちの良さを指摘されるが、父親譲りのブラザー精神は目を見張るものがある。
ロッキーの癌がバレて「俺はもうダメだ」とアドニスに言えば「俺がいる!この俺がいるじゃないか!」と煽る。
更に具合の悪くなっているロッキーを見舞うために「ロッキーを応援しに行こうぜ!!」と、そこら辺を走っている暴走族のあんちゃん達を引き連れ街中をランニング!
窓から顔を出したロッキーに、これでもかとシャドーボクシングを見せつける
それを尻目に、周りを爆走する見ず知らずのバイクのあんちゃんたち!
ここら辺の展開は、かつてロッキー3で「虎の目を取り戻せ」と言い放ったアポロの姿、そしてロッキー2で近所のガキを引き連れてランニングパレードしたロッキーの姿がダブる。
他にもロッキーが病室で伏せっている横で腕立て伏せ!病院の階段を走り込み!を披露。
他の病人からしたら暑苦しい事この上ないかもしれんが、正しいブラザー精神を発揮する。
 
そして迎えた運命の世界王者コンラン戦。
かつて父親、師匠ロッキーが履いたトランクスを身に着けるアドニス。
贈り主は母親メアリー・アンだ。
気合は充分入った!
ルーキーにも関わらず世界チャンピオンに食い下がるアドニス!
だが良い一発を食らい失神してしまう。

失神した時に走馬灯のように流れる今までの日々。

 
そして一瞬脳裏をよぎるアポロの雄姿!
思わずビックリして意識を取り戻すアドニスなのだった。
この一瞬映る、白いマウスピースが眩しいアポロに泣かずにいられるか!
 
親父!もう一杯!!全アポロファンが、おかわりしたくなる瞬間である。
何とか乗り切ったラウンドであったが、ロッキーも「これ以上見ていられない」と試合を止めようとする。

ここで、アドニスが腰に来る言葉をロッキーに投げかける。

 
「止めないでくれ、証明する
 

「何を?」

 
「俺は過ちじゃない」
 

ここでロッキーがアドニスへ虚を突かれたような表情を向ける。

 
「かつての俺と同じじゃねえか・・・」と言いたげな、この表情。
 
ここでロッキーもアドニスへ発破をかける。
「アポロにはミッキーが死んだ時に助けてもらった恩がある。だがお前はそれ以上に、また闘うことを教えてくれた。俺は必ずガンを倒す。お前は奴を倒せ!出来るか!?
「ああ、やってやる!」と返すアドニス。
「お前はクリードだ。奴をぶちのめせ!」とセコンドから離れながら放つロッキーの檄
ドえらくアバウトではあるが、どんな戦略やアドバイスよりも、気合が入る檄なのは間違いない!
いよいよ立ち上がり最終ラウンドのゴングが鳴り、すっかり忘れた頃に『gonna fly now』が遂に響く!
引き続き一進一退の攻防が続き、遂にアドニスの攻撃がコンランに入る。

「ロッキーのようなボディ攻撃!」

「アポロのような連打!」

と解説のアナウンスにも熱が入り、遂にコンランから初ダウンを奪う!
ここで偉大な父の名前として畏怖していたクリードの名を、本当の意味で自分のモノにしたのを象徴していると思うのは俺の妄想だろうか。
思わず、かつてロッキー3で浜辺でアポロの背中を追いかけ、遂に追い抜き「やったぞー!」と叫ぶロッキーの姿が思わずダブってしまう。


いずれにせよ新たな『明日から真似したくなる黒人』伝説を打ち立てたのは間違いない。
 
ロッキーとなると冷静さを失う俺だが、シリーズを観ていない人でも充分に楽しめる作品だと思いますよ。
何せ期待されていない男が立ち上がるのである。
決して「生まれて、すみません」とは口に出さずに「証明させてくれ。俺は過ちじゃない。」と返す。
もう応援せずにいられないじゃないの!!
 
なんで今更書くのよって話だが、恥ずかしい話、俺は本作見ながらメソメソしてしまうからである。
2年経って、ようやく比較的に冷静にはなったが、それでも、やっぱり要所要所でメソメソしてしまう。
何というか、30歳のオッサンが泣くって話は気持ち悪い以外ない。
だが、「人でなし」と他人から言われる機会の多い俺を泣かす力がクリードには確かにある。
 
劇場公開時、観た劇場は小さく、観客も初日に関わらず少なかったが、これはもうIMAXとか4DXどころの騒ぎじゃない。
画面を越えて俺の魂を揺さぶってきた
 
見捨てられたり、人に馬鹿にされたり、見下された経験のある人。
そんな人にこそクリードは沁みますよ。つまり俺だ!

ダラダラと書きましたが、社会というリング『俺は過ちじゃない』と証明したい人にはオススメの映画です。