「恋するエラ呼吸、彼氏は半魚人~シェイプ・オブ・ウォーター」

笑って、泣いて、恋をして・・・
彼氏が人間じゃなくても良いじゃない。
広げて行こうストライクゾーン!!

あれは大学生の頃の部活の合宿だっただろうか・・・

みんなで夜遅くまでバカ話で盛り上がっていた時、友人の一人が派手に酔っぱらっていた。

彼は一般的にイケメン・・・恵まれたルックスを所有しながら、興に乗るとすぐにちんちんを出すという個性から画期的に持てなかった。

そんな彼がすっかり空になった缶チューハイを放り出して突然言い出した。
「男も女もおかしい。好みのタイプってなんやねん、ストライクゾーンってなんやねん?

巨乳がいい?スポーツやってる人がいい?ふざけんなって!!

おまえらは可能性を捨ててるねん。

自分で自分を閉ざしてる。

まず恋愛対象が人間じゃないとダメという時点で既成概念に捉われている。

すっかり目が座っている彼はそのまま熱く訴え続けた。

「さっきトイレにいって小便してたら俺のちんこにカナブンが飛んできた。

よく見たらキレイな色をしていたわ。

カナブンは俺のちんこにとまった後そのまま死んでいった。

あいつは最後の力で俺にフェラをして旅立っていった。

自分がいよいよ死ぬ時、怖かっただろう、不安だっただろう・・・それでもあいつは・・・カナ・ブン子は俺のために生きた。

あの時、俺とカナブンは種族を乗り越えて愛し合っていた。

今までの俺は間違えていた。カナブン、犬、猫、めだか。同じ地球上の生物同士なのだから、恋愛対象にしてもいいはずだ。」

この野郎、いよいよとち狂ったわ!! という事で他にいた連中と協力して水を飲ませた後、全力で彼を部屋に放り込んで眠らせた。

あれから10数年経った今、あいつのあの言葉こそが「シェイプ・オブ・ウォーター」の作品を見事に言い表していると唸っている。



ご存知の通りギレルモ・デル・トロが「シェイプ・オブ・ウォーター」でアカデミー作品賞を獲った。

デル・トロ監督といえば「ブレイド2」「ヘルボーイ」「パシフィック・リム」という「ロジックよりカッコ良さ」を全面に押し出した痛快な作風

来日した時に秋葉原ではしゃぐ、 お台場のガンダムを見て拝む、といったナイスガイっぷりから以前よりオタクを中心に絶大な信頼のある監督であった。

この一点の曇りもない目!!

フィギュアを大人買いし、コレクションルームならぬコレクションハウスを持つ男の中の男。

いわばアメリカンドリームをつかんだ、オタク界の巨星であるデル・トロ監督の新作がこの「シェイプ・オブ・ウォーター」だ。

タイトルこそ「水の形」という事でオシャレだが、冷戦中のアメリカの実験施設を舞台に清掃員のおばさんと捕らわれた半魚人の恋愛という、二度聞きしても状況が頭に入ってこない強烈なあらすじだが、内容はもっと攻めている。

映画開始1分でサリー・ホーキンス演じる発話障害のイライザのオナニーシーンが始まるわ、半魚人はヌメヌメして気持ち悪い叫び声をあげるわ、人体切断などグロシーンは出てくるわという無法地帯も甚だしいストーリー展開。

ラブシーンもよくある真っ白なシーツの中で・・・みたいなキレイなものではない。清潔感のない獣のようなそれを見せられる。(日本ではモザイク処理)

小学校に上がるまでに見たらトラウマになりかねないシーンが連発するわけだが、観ているうちに、幸せな気持ちになってくる。

イライザの家の下が映画館だからではない(羨ましいと思ったが・・・)

やや暗めの映像とオールディーズというデル・トロお得意の組み合わせが最高にマッチしていて良かったが、本作は人生を後押ししてくれるようなエールをもらっているような気持ちになったからだ。

拉致された半魚人にゆで卵をプレゼントしたり、音楽を教えるうちに惹かれていくイライザ。

案の定周りからは「エラ呼吸できる彼氏?素敵やん・・・。」と祝福されることなくどん引きされるわけだが、イライザは「彼(半魚人)は私が障害があるという偏見なしでありのままを受け入れてくれる」と今までと打って変わって恋する乙女モード。

男は男でもアマゾン育ちの半魚人、ストライクゾーンの広さに同僚もご近所さんもびっくりだがイライザの想いは本気だ。恋愛効果でどんどんキレイになっていく。やがて周りも二人の恋愛をサポートするようになる。

冒頭のカナブンの話のように他者に対してだけでなく、自分に対しても抑制をかけていることは自分も含めて多いように思う。

「俺、私はブサイクだから幸せな恋愛なんてしてはいけない、誰かを好きになってはいけない・・・。」

自分がブサイクでもデブでもハゲでもええやん。

誰もが幸せになる権利があるし、自分の想いに正直に生きれば良い。

恋愛に限らず好きな事をすれば良い。おいしいものを食べて、たくさん笑って・・・チビなアジア人だってアイアンマンやバットマンのコスプレをしたっていい。

「シェイプ・オブ・ウォーター」の登場人物は発話障害のおばさんと半魚人だけでなく、 差別意識の強い時代での黒人、リストラされたゲイのじじいと世間から人間扱いすらしてもらえていない日陰の者達ばかりだが、みんな腐っておらず一生懸命毎日を生きている。

今の時代、少しでも間違えると「イキっている」と叩かれるし、何をしてもバカにしたりする奴は出てくるだろう。

もしかすると劣等感の裏返しから「痛いやつ」を見つけてはネットで晒すなどバカにしてストレス発散している人もいるだろう。

後ろ指さされても好きなものは好きといえばよい。「他人の声ばかり気にせずもっと楽しく生きよう。」という全てを手に入れたオタクのデル・トロ監督だからこそ説得力があるメッセージを「シェイプ・オブ・ウォーター」から感じた。

姿形はゲテモノだが、中身は優しさに溢れたラブコメ。こんなゲテモノがオスカーを獲ったのだから、この世の中も捨てたもんじゃない。

とはいえ、「インテリぶるには最高の映画」という記事を見つけて
「イキリオタクは死ね!!一生パソコンの前でしこってろ!!」
とイラついたので僕はまだまだですね。