プーさんが大人になった僕に教えてくれたもの
仕事せずにフラフラしてる奴が人生語ってくる事ほどムカつくものはない。
労働とはハードである。
誰しもストレスを抱えているだろう、時間にも予算にも追われ、毎日疲れ切って家に帰る。辞めたいが、家のローンや保険もある。養わなければならない家族もいる。
最厳しかった客に突然「今月末で辞めることにした」と言われて、この人もいろいろ抱えていたんだなと思った。
喫煙所でタバコを吸っていると残業時間や上がらない給料で将来が不安になることもある。
仕事だけじゃない、家庭、親の介護、子供、健康・・・。
結婚したくて悩む人もあれば、離婚しそうで悩む人もいる。
誰もが精神をすり減らしながら生きている。
そんな毎日の中で、例えばの話、久しぶりに会った学生時代の友達で、金の出どころは不明だが、仕事はしておらず、平日の昼間からメダルゲームばかりしている。
もしくは専業主婦だが、家事もせず毎日ジムのプールに通い、ツムツムのレベルが異常に高いような奴から「仕事し過ぎ、もっと楽に生きるべきっしょ?」 と言われるとしよう。
殺意がわくだろう。
なめんな、殺すぞ。
「プーと大人になった僕」の予告を観た時の俺の第一声はこれだった。
この口の周りをはちみつまみれにした赤Tシャツのクマは俺が子供の頃から今に至るまで常に大人気だった。
男女関わらず「かわいい」と言われる愛くるしい姿。
子供の頃、今以上に天邪鬼だった俺は「こんな奴に「さん」付けする必要はない」と距離を置いていた。
そんなプーが実写化、公開日が9月14日。
奇しくもはちみつではなく人間の脊髄が大好きなプーレデターさんの新作も公開日される。
俺のプレデター好きは嫁も理解している。その状況を嫁も理解してくれた上で
「プーと大人になった僕」を観に行くことになった。
プレデターの方が子供の頃からずっとそばにいたのに・・・。
俺の表情は部下を全員プレデターに殺されたダッチのようになっていたが、ここでケンカになるのはよくない。
ドヤ顔で「毎日何もしていない」というあの野郎と決着をつけるべく、俺は劇場に殴りこんだ。
あらすじ
場所はハートフィールド
100エーカーの森では寄宿学校に通い始めることになったクリストファー・ロビンの送別会を開いていた。
送別会にも関わらずティガー、ピグレットといった連中は挨拶もそこそこに散々飲み食いしたあげく爆睡。朝4時頃の鳥貴族のような場になったので、クリストファー・ロビンとプーは場所を移動
グループの中でも特に仲良かった二人は別れを惜しむ。
「100歳になっても、きみのことは忘れない。」
それから数十年後、その後のクリストファー・ロビンは親父が死に、徴兵されて戦争に行くと波乱万丈な人生だったが、今や家族にも恵まれて、会社ではカバン部門の管理職になっていた。
「何もしないのが大切」が座右の銘だった少年時代からうってかわり、「何もしないと何も生み出せない」が口癖になっていた。
仕事での昇進、家庭、マイホーム、マイカー・・・。
世間的には幸せを掴んだかのように思えるが、実際は死んでいた。
会社では上司(社長の息子)にいびられ、資料の提出を週明けに命じられる。
しかも内容がリストラも含めた経費削減案なので精神的にきつい内容だ。
休日に予定していたハートフィールドの実家に家族で行くプランは消滅。
毎日帰りが遅く、家族の関係も冷め切っており、嫁と娘からはあまり相手にされていない。
近所のおじさんから一緒にカードゲームをしようと誘われ続けるが疲れているので断り続けている。
絵に描いたような社畜。書いている俺の胃が痛くなるような毎日だ。
嫁と娘を送り、自分は書類作成のため休日出勤。
ひと段落ついてベンチでため息をついていたところ、なんとプーと再会する。
ついに俺はメンタルが壊れてしまったのかと思ったクリストファー・ロビンだったが、これは夢じゃない。
プーいわく「俺以外の連中が行方不明。気づけばロンドンにいた。というわけで手伝って。ついでに何か食わして」との事。
親友との偶然の再会を喜び、プーを家に連れて帰ったが、家中をはちみつまみれにしレコードを傷つける。
プーは数十年間マジで何もやってこなかった。
あの時と全く変わっていない・・・(あかん意味で)。
家庭も仕事も持っているクリストファー・ロビンと、いまだにそのひぐらしのプーとでは5分もしないうちに会話が成り立たなくなっていた。
クリストファー「ほんま忙しいねんて」
プー「俺は毎日何もしてへんで(ドヤ顔)」
クリストファー「仕事せなあかんねんて」
プー「それって大切なん?」
クリストファー「おまえマジでいらつくな。」
プー「おなかすいた」
クリストファー「はよ帰れや!!」
プー「帰り方わからん。」
結果、プーの強制送還のため、帰省する事にしたクリストファーロビン。
(この記事を書くにあたってロンドンからハートフィールドまでの所要時間を調べたところ電車で1時間、その後バスで30分らしい。かなり遠い!!)
プーは風船ではしゃぎ、少しでも真面目な話をすると「考えるの苦手やねん」と言って話をそらし、「腹がへった」としか言わない。
「こんな奴だから、それなりの付き合い方にしよう。」
電車の中でも仕事をしているクリストファー・ロビンと窓から見えるものをずっと言っているプーの距離感は破竹の勢いで離れていった。
とりあえず他の連中を見つけてプーを家に戻そうとするが、プーがコンパスの見方がわからず、ずっと同じところをグルグル回っていた事が発覚。
クリストファー「さっきコンパスの使い方教えてやんな?何してたん?」
プー「足跡を追って歩いてた」
クリストファー「この足跡は俺らがつけたやつやん!!」
プー「おばけが出てきたら怖いし」
クリストファー「話そらすなや!!」
プー「嫌いなった?」
クリストファー「もうマジでいいです。もっとちゃんとした方がいいですよ。お疲れ様でした。」
かっての友情は完全崩壊、ついにブチ切れるクリストファー・ロビンだったが、突如プーが行方不明、嵐に巻き込まれて森で気絶。
水たまりの中で目覚めたクリストファー・ロビン。
嵐が過ぎた森の中で、
溺死にチャレンジしていた、無気力かつメンヘラのイーヨーを筆頭に、
ビビりのピグレット、
何かよくない事をしているのではないかと不安にさせる陽気さのティガー(声が玄田哲章なので、目をつむればLSDをキメたシュワルツェネッガーのようだった。)
といった連中と再会、プーもケンカの事はすっかり忘れてケロッとしていた。
「そんなに仕事が重要なん?昔は毎日楽しくしてたやん」
「へぇ~結婚したんや、娘もおるん?大したもんやな。大切にしたれよ」
「なんかロンドンはきついみたいやけど、俺はおまえの事忘れたことなかったけどな」
「ずっと親友やで。つらかったらなんでも言うてみ」
「おまえは変わったって言うてるけど、俺はそう思わへんな・・・だって目は今でもあの頃のおまえやで」
と今まで勝手に家に上がり込んで帰りの電車賃も全て払わせたという事実を棚に上げてちょっといい感じに語るプーにクリストファー・ロビンの涙腺が崩壊。
号泣するクリストファー・ロビンを優しく抱きしめるのだった。
一晩眠って「楽しかったけどそれはそれ、これはこれ」で出勤するためロンドンに戻るクリストファー・ロビン。これで日常に戻ると思いきや
「あいつだいぶメンタルいってたからな。仕事より大切な事を思い出さなあかんで!!」
と書類の代わりにどんぐりや木の枝をカバンに入れといたったとドヤ顔で話すティガー。
「それはあかんやろ!!ないわー」とドン引きする森の皆さん
「絶対困ってるでとりあえず書類を渡しに行こう!!」と突如漢気を発揮するプー。
仲間達「どこ!?」
プー「ロンドン!!」
仲間達「じゃなくてロンドンのどこに!?」
プー「どこか!!」
仲間達「えーっ!?」
プー「とりあえずコンパス持ってるし大丈夫やろ」
仲間達「だよね~!!」
と勤務先に関する情報一切なしで出発したプー達だった。
基本、友情物語というのは仲間が情に厚く頼りがいというのが定説だが、
プー達は数十年間、何もしてこなかった筋金入りの無職だ。
もし、エクスペンダブルズがスタローン以外全員、平和主義者だったら?
ワイルドスピードでヴィン・ディーゼル以外全員、免許を持っていなかったら?
話が進まないが、「プーと大人になった僕」については奇跡的に話が進む。
人生の荒波に飲まれそうになるクリストファー・ロビンが、プー達のアウトサイダーっぷりに「なんで俺ってこんなに必死なんだろう」と思いつめるのをやめて救われるという今までにないパターンだ。
観た後は実際気持ちが軽くなったし、会社のスマホに届いているタイトルでクレームであることがわかるメールを無視する勇気も生まれたが、観賞して一晩明けて
「そんな調子良く生きれるわけないだろ!!」
と思ったのが正直なところだ。
特にプーについては真面目な話になるとすぐに話をそらすというところが
マジでダメだと思う。
劇中、プーは真面目な話になると「考えるの苦手だから」と話合う気が全くなく、 それでも自分にとって興味のない話になると?「おなかすいた」「はちみつより大切?」とひたすら話を逸らそうとする。
めんどくさい相手の場合ならわかるが、この一方的に自分の都合の良い話しかせず、全くコミュニケーションを取る気がない態度はかなり失礼だ。
同じイギリス人でも相手がユアン・マクレガーではなくジェイソン・ステイサムだったら地面に顔面を叩きつけられていただろう。
余談だが監督のマーク・フォースター。ステイサム感ある。
とはいえど確かに世界のプーさん、良いとこはある。
メンタルが安定しているし、久しぶりの友人に会っても一切カッコつけない。自慢する事もない。
また、「要所要所でええ奴になる」というスゴ技を持っている。
本作を通して、プー自身は本当に何もしていないのだが、 クリストファー・ロビンがヤケクソになっていると「僕の事も捨てたのかい?」と同情をあおり、情が戻ってきているのがわかると「俺はいつだって忘れた事はないぜ」と一気に畳みかける。
実際クリストファー・ロビンはプーを抱きしめ号泣している。
これは俺の仮説だが、多分、プーはヒモとして生きてきたのだと思う。
おそらく100エーカーの森には身の回りの世話から金の援助までしてくれる献身的な女がいると考察している。
女に稼がして自分は毎日はちみつ三昧・・・。
余計にむかついてきた!!
おい、プー!!おまえは人生で大切な事を知ってるんじゃねぇ!!
世の中のつらさから逃げてきただけだ!!
ふやけた面しやがって!!
おまえも真面目に生きてみろ!!
綿抜くぞ!!
原作のプーさん。メンヘラ、意識高い系に対して容赦がない。