仕事と私どっちが大事?
そんなセリフを女性から聞かされた人はいるだろうか?
かつて俺もド平日の深夜2時くらいに呼び出され、 雪が降る公園のベンチで朝5時まで悩みを聞かされたものである。
で結局、特に気の利いたアドバイスも出来ないまま、意識不明の寝不足で出勤する、という。
そんな経験をした人も中には入るかもしれない。
ともあれ仕事は仕事、 プライベートはプライベートで分けたいものだが、 なにかしら男女関係がこじれると少なからず影響が出てしまう。
その逆も然り。
いわゆる公私混合って奴ですな。
まあ男としてブレてしまいがちな永遠のテーマである。
このテーマに男を描いたら右に出る者がいないハリウッドの監督が 挑んだ!
映画『ヒート』 にて浮気されたら唐突にブチ切れてテレビだけ持って家を出ろ、 と観る者に教えてくれたマイケル・マンの『マイアミバイス』 である。
男性ホルモンが服を着ているような刑事ソニー。
割と真面目な黒人刑事ニコ。
このマイアミでイケイケの刑事コンビが国際的な犯罪組織を追う為 に潜入捜査を繰り広げるのが主なあらすじである。
どれ位イケイケかというと、FBIの指示は基本ガン無視、 パクった麻薬でシレっと取引、掟破りの手榴弾交渉をするイケイケぶり。
そんなわけで順調に組織へ潜入する二人だったが、 問題が一つあった。
組織の秘書が無駄にエロいのである。
男性フェロモンがダダ漏れのソニーに何もするな、 というのは無理のある相談であった。
日高屋でラーメンを食いに行く感覚で、 モヒートを飲むためにボートでキューバへ直行。
いい感じで酔っ払って情熱的なダンスなどしている内に、 ワンチャンを決めてしまうソニーなのだった。
そこで辞めときゃいいのに、 お互いに感じるものがあったのだろう。
あるいは相手の素性を探る打算もあったのかもしれない。
気が付けば本気モードに落ちる二人。
というわけで、 仕事もソコソコにイチャコラするソニーなのだった。
かつて見た時は、隙あらばソニーがイチャコラしまくるので「 お前仕事しろよ!」とか思ったもんだ。
ともあれ「私(女)と仕事どっちが大事なの?」問題へ「 もう公私混合しまくれ!徹底的に!」という、 マイアミの空ばりに清々しいアンサーを出すマイケル・ マンなのだった。
思えばヒートのデニーロも月9みたいな恋に落ちる展開になってい たから、そこはよしとしよう!
見方を変えれば、潜入捜査中の敵組織の女とイチャコラするというのは、 並大抵の胆力ではこなせない。
なにせヘタすれば殺されるのである。
俺なら絶対に芋を引くところだろう。
このリスクを恐れなさ。
これはこれで漢気といえるのではないだろうか?
この作品、そんなソニーの色男ぶりに目が行きがちだが、 何といっても見逃せないのがリコの秘められた漢気である。
誰が見てもヤバイ状況にもかかわらず「ほどほどにしとけよ」 とソニーのイチャコラを言葉少なに諭す程度のリコ。
普通であれば自分は真面目に仕事してんのに相棒が車中ファック決 めてたら「オマエいい加減にしろよ!」と言いたくなるが、 リコは文句を言わない。
案の定、ソニーのイチャコラのおかげで身バレ、リコの恋人にして同僚が組織に拉致されてしまう。
「だから言ったじゃねえか!」 と相棒として文句の一つや二つ言いたくなるものだが、 リコはソニーにやいのやいの言わない。
いよいよ敵組織が待つ修羅場へいくと決まっても、余計な言葉を交わ さずに拳を付き合わせるリコ。
この男気はどうだ!
ここからマイケル・ マンお得意の重厚な銃撃戦が開始されるのだが、 それまでの淡々とした潜入捜査シーンの鬱憤を発散させてくれる。
そしてソニーの道ならぬ恋愛の結末は、究極の公私混同なのだが、 同時に男気を最大に発揮している。
ラストのソニーの「やべえ…俺やっちまったなあ…」 と言いたげな何とも言えない表情が全てを物語っている。
このプライベートも仕事も苦い結末なのが味わい深い。
なんでもうまくいくとは限りませんからね。
ドライかつクールな潜入捜査、公私混合、秘められた漢気、緊迫した銃撃戦と一粒に三度美味しい本作。
正直、取り立てて面白いかと言われれば『さあ…』 としか言いようがない。
だが、地に足の着いた演出の映画なのは流石マイケル・マンだなあ! と思わせてくれる。
こちらの作品も深夜一時に観始めるにはちょうどいい。
という訳で、見た後、 仕事で客先に行くときは思わず手榴弾を持って交渉したくなる映画 ですよ。