全治9か月の骨折、 成層圏からジャンプ、ヘリにかけこみ乗車、
男はいつも本気になった時が青春、トム・クルーズは身も心もハンサム
ミッション・インポッシブル。
言わずとしればトム・クルーズ主演で22年続いている「スパイ大作戦」の映画版である。
1作目のトム・クルーズのハンサムっぷりが爆発した正統派スパイアクションの傑作から一転、2作目で監督がジョン・ウーになり早くも「潜入」をド忘れしたハードなガンアクションへと変貌した。
「ミッション・インポッシブル2」より。
なびく髪、グラサン、革ジャン、バイク、炎。地球上に存在する「カッコいい」を全てパッケージした瞬間。
トム・クルーズのハンサムっぷりは健在だが、自身のイケメンにあぐらをかかず 「元気があれば何でも出来る」精神でごり押しする景気の良いシリーズだ。
子供の頃から好きなこの映画、俺の人生にも少なからず影響を与えてきた。
4作目の「ゴースト・プロトコル」でApple製品のチート過ぎる性能(明らかにビジネス的な影響だろう)に感動してiPhoneを使い始めたし、5作目の「ローグネイション」では政府から「行き当たりバッタリ、結果オーライの行動が多すぎる」と今さら過ぎるダメ出しを受け、
組織解体、国際指名手配中かつ「50代無職」というハードモード真っ只中のイーサン・ハントの状況に当時そこそこ安定した企業から転職して小さな会社で働いていた俺は勇気づけられた。
人生というのはミッション・インポッシブルな出来事の連続である。
俺は現在転職により3社目の会社で働いているが、これまでの2社と比べると待遇はマシになったとはいえハードだ。
「ひと段落」という概念が存在しない業務量
常に時間との戦いの納期調整
毎週のミーティング
臨時で入ってくる報告義務
精神的にだいぶ参って、真夜中に川を眺めながら無表情でタバコを吸っていた時期もあった。
最近はだいぶ慣れてはきたが、金曜日の夜中に観た映画が「レスラー」、よく聴いている音楽が銀杏BOYZという状況なので我ながら荒んだ精神状態であることを自覚している。
そんな時にちょうど「ミッション・インポッシブル ファールアウト」が公開された。
本作でも「その場のノリで動き過ぎ」という点でイマイチ信頼されていないイーサン・ハント。
珍しくストーリーが続きもので、毎回変わるヒロインもレベッカ・ファーガソン演じるイルサが続投、前作の悪役であるショーン・ハリス演じるレーンも出るし、12年ぶりにイーサンの嫁ジュリアも再登場する豪華仕様だ。
「組織は関与しない。おまえで何とかしろ」と言われる割にはその組織に裏切られがちだし、ついに周りからも「あれだけ組織に雑に扱われてくると忠誠心なんてすっかり失っているはず」とまで言われるが、相変わらずどれだけ予定が狂っても気合で何とかしようと仕事する姿には胸を打たれる。
ミッション・インポッシブルを観てこんな感想を抱く事に切なくなるが、10代、20代とは違った意味で元気をもらったのは事実だ。
さて、「フォールアウト」についてはパンフレットに掲載されているヘンリー・カヴィルのインタビューが全てを物語っている。
「これまでの人生で絶対不可能なことに直面したことはありますか?
-この映画を生き延びることだね。
(笑)
-いや、冗談じゃないよ。この映画の撮影中、何度も死ぬと思ったから。もし、そのことをうちの母に相談していたら、うちの母はトムに電話をかけて止めさせようとしていたと思う(笑)
子供が立派過ぎる大人になっていたとしても親なら確実に抗議するであろう仕事内容(アクション)に溢れていた。
スタローンよりも「クリフハンガー」している図。
アクションシーンが売りのミッション・インポッシブルで「アクションシーンがすごかった」というと某村昆ばりのクソな感想だが、有村某くらい知性が下がるほどのアクションだった。
そして今回、いつも以上に心に沁みたのがトム・クルーズの劣化だ。
御年56歳。短くまとめた髪型のせいもあるとは思うが、以前と比べて明らかに目元の皺も頬のたるみも目立つ。
もちろん今でも人類を代表するイケメンではあるが、かつてのハンサムのゴリ押しではない、年齢を感じさせる佇まいだった。
にも関わらずだ!!
以前ニュースにもなった、「ビルの屋上から屋上にジャンプして全治9か月の複雑骨折」を気合で6週間で治すにはじまり、成層圏でジャンプ、ヘリコプターにかけこみ乗車からの自力で運転、そしてバトルを全てノースタントでこなしている。
ヘリにかけこみ乗車の様子。トム曰く「寒かった。(高さ的な意味で)」との事。
男はいつも本気になった時が青春、その点でトムは今も青春真っただ中。
すっかり疲れてしまっている俺はトムの心のハンサムさに熱くさせられた。
そしてそれについていく共演者とスタッフだ。
このシリーズ、トム・クルーズが無茶を言い出し始める→周りが全力で止める→トムが譲らない→皆で気合と根性で何とかするというサイクルを繰り返す事で、前作「ローグ・ネイション」では飛んでる最中の飛行機にかけこみ乗車というファンタジーの領域まで達していた。(書いているとトムはエクストリームなかけこみ乗車が大好きだなぁ!!」
トムの「元気があれば何でもできる」スタイルは見事だが、その代償として命の重さを忘れがちな提案をがつがつ出す。
成層圏からダイブしてみよう、そうだ、ヘリで低空飛行の後体当たりもいいね!!と、喜々としておかしな事を言っているトム・クルーズの隣でヘンリー・カヴィルはこの表情だ。
製作スタッフ達の全てをあきらめた一言。トムが言えばやらざるおえない。
実際、、これらにほぼ同伴したヘンリー・カヴィルの悪役は良かった。
5年前、「スーパーマンで人気者になっちゃったからスタバに気軽に行けなくなった」と素朴かつキュートなコメントをしていたヘンリー・カヴィル。
冷徹かつ巨体を生かした一発一発が重い格闘、劇中終盤でのヘビーマシンガン乱射は往年のシュワルツェネッガーやドルフ・ラングレンを彷彿とさせた。トム・クルーズと十分に張り合ったという点で過去作ベストの悪役と思う。
その結果、毎日命の危険に晒されていたためこの表情
パンフやネットの記事を読んでいても
「自分はスリルを求めるタイプじゃない」
「かなりきつかった」
「毎日泥のように寝た」
「痛い」
という言葉がどんどん出てくるし、前述の
「おかんに相談してたら多分、おかんがトムに電話かけて止めさせようとしたと思う」という名言が生まれたのも納得できる。
理不尽に耐え続けるイーサン・ハントというキャラクター
いくつになっても青春まっしぐら、今回もハンサムと気合で不可能を可能にする男、トム・クルーズ
そして死んだ目になりながらもひたすらトムに同伴するヘンリー・カヴィルを筆頭とした共演者とスタッフのオーバーザお付き合い精神。
「ミッション・インポッシブル フォールアウト」はサラリーマンにとって社会の荒波でサバイブする何かが詰まりまくっていた。
トムのばっきばきの笑顔と退職を決心したかのようなスタッフ。