アメコミ×ラブコメ 最悪のツンデレ「ヴェノム」

君の膵臓が食べたい。でも好きだから食べない。
ドン底の俺に舞い降りた海苔の佃煮似のあいつ

ヴェノム・・・初めて知ったのは「マーブルスーパーヒーローズVSカプコン」だったと思う。

「悪そうだし、強そうだし、しかも黒い!!とりあえずカッコいい!!」
と小学生が思うカッコいいを凝縮した姿に俺は一瞬にして好きになった。

それから10年後の事、2007年のサム・ライミ版「スパイダーマン3」にてついにヴェノムがスクリーンに登場すると知り興奮した。

ピーターに寄生したシンビオートがやがてエディ・ブロックに・・・。オーバーザ・顔面凶器。CGでフルに描かれたヴェノムはこの世の物とはいえないカッコよさだった。

今見ても抜群のカッコよさ。ヴィジュアル面は完璧だったのに・・・。

しかし、どうやらサム・ライミはヴェノムに全く興味がなく、ソニーの要望で半ば無理矢理登場することになったらしく、劇中での彼は常にめんどくさい事はサンドマンにやらせる、自分は後ろで悪口を言うだけでやる気ゼロだった。
「俺はこの日を待っていた!!さぁ、戦え!!殺せ!!」 と俺は心の中でヴェノムにエールを送り続けたが、「音がうるさい」事にうんざりした彼はそのまま退場してしまった。

ヴェノムがまさかのスネ夫ポジション。

スパイダーマン自身も「大いなる力には大いなる責任が伴う」ことを過去2作と違って割と忘れがちだったという事も確かにあるが、当時の映画史上最大の製作費(290億円)を投入し、「パイレーツ・オブ・カリビアン」も「シュレック」も抜いて2007年の年間興行収入で1位を取った大成功映画の割には評価が高くなく切ない扱いだ。

あれから11年。「ヴェノム」が単独作品で帰ってきた。

更に顔面凶器度のレベルを上げたヴィジュアル、主演はトム・ハーディー、しかも主題歌は世界一口が悪いエミネム。日本でも「最悪」とキャッチコピーの入ったポスターが好評で、期待は爆上がりした。

公開から1日経った土曜日に観賞したわけだが、確かに残虐ではあった。最高におもしろかった。

でも何だろう、この優しい気持ちは。

信じてもらえないかもしれないが、はっきり言わせて欲しい。

「ヴェノム」はアメコミとラブコメのハイブリッドだった。

それも超王道の。

少しだけ違うのはヒロインが美少女ではなく海苔の佃煮に似た宇宙生命体というところだった。

あらすじ

エディ・ブロック(トム・ハーディー)はマイケル・ムーアばりに社会のタブーに突っ込む取材で定評のあるジャーナリスト。

今回も若くしてライフ財団を立ち上げた、ドレイクに突撃取材。

表向きは最先端医療や宇宙事業だが常に黒い噂が絶えない。

持ち前の正義感でエディは「ホームレスを使って人体実験してるんでしょ?行方不明になってる人めっちゃおるらしいですやん!!てかやっぱ芸能人と付き合ったりしてるんすよね!?」とドレイクに突撃した結果、強大な圧力により翌日会社をクビになってしまった。

おまけに嫌がらせで彼女のアンも仕事をクビにされる。「あんたのせいで私までとばっちり。もう無理!!」いう事で一瞬にして仕事も彼女も失ってしまったエディだった。

半年後、圧力により新しい仕事もできず、家はおんぼろアパート、家賃も光熱費も滞納でいよいよライフラインの停止の危機に陥っていたエディの元にライフ財団の科学者のドーラが現れる。

「人体実験はマジ。宇宙で発見された生命体を使って人体実験をしてがんがん殺してる。」と良心の呵責に耐え切れなくなったドーラは「悪事をネットで晒して欲しい」とエディに相談するのだった。

一旦、断ったが、よくよく考えてみれば金がないので引き受けたエディ。ドーラの協力で研究所に忍び込むエディだったが。そこで馴染みのホームレスが監禁されているのを発見、助け出そうとするがホームレスにいきなり襲われる。!!

「やめろてよ!!ゲゲーッ!!何か口に入った!!」

一瞬ではあったがホームレスから海苔の佃煮のような物体が出てきてエディに入っていった。

気にする余裕もなく銃を持った警備員に追いかけられるエディ。
無我夢中で逃げられたエディだが、鋼鉄の扉を突き破ったり、5mくらいジャンプ出来たり、20mくらいの木に一瞬で登れた事がめっちゃ不安になる。

さっきの僕、あきらかに人類を超越してたよね・・・まぁ火事場のクソ力ってやつかな。」とあまり気にしない事にしたものの、帰宅後、やっぱりおかしい事に気づく。

めっちゃお腹が減る。感覚がない。何より一番怖いのが、脳に直接「誰か」が喋りかけてくる。

元カノのデート現場に乱入し自分の意志とは無関係にレストランでロブスターを生で食べちゃった・・・・。完全に#閲覧注意とかで拡散されるやつやん。。

アンの現在の彼氏で医者のダンが、奇行を繰り返すエディを診察するが、悪化するのみ。(彼女の元カレにここまで親切に出来るあたりかなりの男前だ)

「絶対何かうつされたわ。」と家で体調不良を理由にガチ凹みしていたところ、宇宙生命体奪取に来たライフ財団の連中に襲われるエディ。もうだめだと思ったその時、

手から海苔の佃煮が出てきた!!

一瞬にして刺客達を蹴散らす佃煮。エディは体のコントロールを乗っ取られ盗んだ、バイクで走りだすのに付き合わされる。壮絶なカーチェイスの末、完全に体を乗っ取り襲ってきた奴を食う佃煮の化け物。

ビビりまくっているエディに対して佃煮は「俺はヴェノム、宇宙の生命体。おまえら人間が俺を見つけたんじゃない。 俺がおまえらを見つけた。我々シンビオートは地球を乗っ取る。まずはおまえの体は使わせてもらう!!」と物騒な自己紹介と始める

「ずっと喋ってきてたのこいつか・・・てか体使わせろって。事後報告やん」とにかくめっちゃ怖いので、「はい」とうなずくしかないエディだった。

最も残虐な「悪」が誕生した瞬間だった。

容赦のない残虐、理屈なしのカッコよさ。これぞ待ち望んだヴェノムだが、ここから突然この映画の何かが狂い始める。

地球外生命体に寄生されるというホラーな状況なのだが、ヴェノムがやたらと世話を焼いてくる。

ボディガードもしてくれるし恋愛相談にも乗ってくれる。

「元カノも仕事なくなったんやろ?ちゃんと謝りや!!迷惑かけたん君やで!!」と直接脳に話しかけてくるヴェノム。 きちんと謝ると「ナイス!!」と褒めてくる。どんどん怖さが甘酸っぱさにシフトする。

「寄生」という言葉を使うとやたら怒ってきたり、「俺達に隠し事はないぞ!!」と念押ししてくる。

もしかしたら好かれてるのでは?

これまでとは違う意味で不安になるエディ。

時を同じくしてドレイクに寄生したもう一人のシンビオートのライオット。(ヴェノムより3割増しでムキムキ)

ヴェノム曰くシンビオート界のエリート的存在で地球を植民地化しようとしているらしい。シンビオートを使って人類を進化させようとしているドレイクとは気が合う。

「地球が汚れているから宇宙で住めるようにしよう」と壮大過ぎるアイデアで人体実験を繰り返す大富豪。そんなに金があるならまずは俺達に恵んでくれよ、毎月30万円くらい。

「地球を救うのは俺達しかいない!!」と一人で気合が入っているヴェノム。

「なんで俺じゃなくて俺達やねん!!、てかおまえ気持ち変わり過ぎやろ!!」と誰もが思った事を言ってくれるエディ。

そしてヴェノムが語る衝撃の真相。
「地球に残って生きようと思う。ぶっちゃけ俺ってシンビオートの中では負け犬でさ・・・・。そんな時おまえと出会って。ほら、おまえも負け犬やし気が合うなーって。」

地球が危機かもしれないが、それはそれ。これは相当マズい。そしてついにエディが最も恐れていた一言が飛んでくる。

「こんな気持ちになったのは・・・おまえがきっかけ」

 

告られた!!今はっきりと告られた!!

 

とりあえず返事は保留にして地球の危機を救おうという事にした二人。
「で、ライオットには勝てるの?」というエディからの問いに対して「あいつケンカめっちゃ強い。勝てる可能性ほとんどゼロ。でも俺達が力を合わせたら勝てるかも♪」とどことなく嬉しそうに答えるヴェノムだった。

この通り、ヴィジュアル的に抜群のヴェノムだが、エディに寄生する物語後半から突如ラブコメ展開がスタート。

・素直じゃない
・おせっかい
・なんだかんだで優しい

隣に住む同じ年の幼馴染のようなキャラでエディに猛スピードで好意を寄せていくヴェノム。

観る前と観た後でかなり言葉の印象が変わる。

外見と言動は物騒だがボディガードだけじゃなく恋愛相談にも乗る献身さ。

一時的にアンにも寄生するのだが、寄生後に何故かヴェノムの味方になっている。親族と仲良くなるなど外堀から埋めていくのは分かるが、元カノまで抑えるというのは相当な高いレベルの恋愛テクである。

本作のヴィランであるライオット&ドレイクとの戦いは勝ち組対負け組という胸アツな展開なのだが、 直前の「俺が変わったのはおまえがきっかけ」という告白シーンのインパクトの強さで、戦いというより初めての共同作業のようであった。

観る前と観た後でここまで印象の違う映画は久しぶり。 アメコミとしても王道だがラブコメとしても王道なのでそれこそデートにも向いているだろう。

予告でも登場する「We are venom」の言葉。鑑賞後だと結婚式で新郎新婦の誓いのキスを観ているような気持ちになる。

これからの時代、黒髪の美少女でも、隣に住んでいる幼馴染でも、妹でもお姉さんでもなく海苔の佃煮に似た宇宙生命体なのかもしれない。

まだ観ていない人はヴェノムの残虐さよりもツンデレに覚悟して挑んで欲しいところです。中毒性があるので観終わった後も思い出して笑ってしまう。

次作ではついにエディの胃袋を掴むヴェノム、新たなヒロインにヤキモチを妬くヴェノムが観れるのではないだろうか。(意外とマジでありそう)


この映画を観ると、フィギュアというよりぬいぐるみが欲しくなる。