2月の寒さが厳しいある日、俺は疲れ切っていた。
布団から出られない。
どれだけ眠っても疲れが取れない。
今年に入ってからずっと体調が悪い。
関係者の皆さんから試写の案内を頂くが、仕事が忙しくてほとんど観に行けていない。
せっかく大好きな映画を一足早く観れるようになったのに。
申し訳ないし自分が情けなくなる。
ある日の事、封筒が届いた。
我々ビーパワーハードボイルドがずっとお世話になっているTさんからだった。
大抵試写の案内と映画に関するプレス用の資料を頂くのだが、今回は違った。
中身はA4の紙一枚のみ。
極太の筆記体で
「最強、詠春拳。とくとご覧あれ」
の一言のみ・・・・
これでどうしろと!?試写に関する情報が一切ない。
冷静に社会人として考えて、わざわざ郵送でこの一言だけ送ってくるのは
どうかしている。ついにあの女、気が狂ったか。
よくよく聞いてみると、イップマンのスピンオフ「マスターZ」らしい。
3作目「イップマン 継承」にてドニーさんを食う勢いだったマックス・チャン演じる詠春拳のマスター、チョン・ティンチが主人公らしい。
映画としてめっちゃ観たいし、何よりTさんのメンタル面も一大事であることは間違いない。
滑り込みで試写を観ることが出来た。
マスターZ・・・
男が己の拳で信念を取り戻す再起の物語!
スピンオフという位置づけをド忘れした豪華なキャスト!
同性でも惚れるマックス・チャンの色気!!
ビーパワー的にド真ん中。最高の一本だった。
あらすじ
イップ・マン(ドニーさん)に負けて以来、チョン・ティンチ(マックス・チャン)は自ら武術を封印。香港で息子と食料品店を営んでいた。
「正統・詠春拳」と名乗りイキリまくっていた自身を恥じ、穏やかに過ごす日々だったが、香港では薬物が蔓延し治安は絶賛最悪、ナイトクラブの歌手ジュリアとホステスのナナが暴力団に襲われていたところを、通りがかってしまったので呼吸をするくらいの自然さでさくっと撃退してしまう。
ちょっとした親切心でチンピラを全滅させてしまったものだから、裏の世界の方々を中心に街の人気者ポジションに就任してしまったティンチは早速その日の夜に店に放火される。
なんとか逃げていたら今度はトニージャーが命を狙ってくる。
乱闘、放火からのジャーと瞬時にして殺伐とした日常になってしまったティンチだがジュリアの計らいで、ナイトクラブのウェイターとして働かせてもらえるだけでなく、息子とともに住ませてもらう事になった。
再度平和が訪れたかのように思えたが、薬物問題はさらに悪化し、おまけに
犯罪組織のボスであるクワン(ミシェル・ヨー)
どうしてもカタギには見えないレストランのオーナーデヴィッドソン(デイブ・バウティスタ)
まで加わる。
つい次々と傷つく恩人達、ついに死者も出る。
人々の怒りと悲しみを背負いティンチは詠春拳の封印を解く・・・。
思えば「イップマン 継承」でのチョン・ティンチはぶれまくっていた。
前半ではマイク・タイソンが牛耳る犯罪組織相手に戦うイップ・マンの強力な助っ人として登場したが、
裏では依頼されたターゲットをリンチにする仕事を請け負っていたり、
後半では「正統 詠春拳」と名乗り道場破りを続けて、イップ・マンに挑発したりと己の金と承認欲求のままに動いていた。
まるで「俺はマーブルクロスの頃からアメコミを読んでいるしMCUはアイアンマンから追いかけている」と大学生や高校生に知識やフォロワー数でマウントを取るイキリオタクのようだった。
そしてイップ・マンに「俺が正統派、闘え」とクソリプを送った結果、圧倒的な実力差を見せつけられ意気消沈。炎上こそしなかったがアカウントを消すかのごとく武術の世界からいなくなっていた。
序盤で使わなくなった木人が物干しになっているシーンがあるが、「~継承」での彼を考えると強烈にむなしくなった。
そんな彼が自身の利益や承認欲求ではなく、人々のために立ち上がりクライマックスの戦いで 「詠春拳 チョン・ティンチ」と名乗るシーンは、本作屈指の名シーンで、抜群のタイミングでイップ・マンのテーマが流れる事もあり「クリード」的な熱さが込みあげる。
漢気マックスの自己紹介!!
キャストとしても、今回のマックス・チャンの色気がすごい。
武術の道を諦め挫折した事によるどこか憂いを帯びた表情のエロさ。
拳一つ一つからセクシーを放っていた。男の俺でも身を預けたくなったのだから
女性にも是非とも見て欲しい。
年齢をド忘れしたアクションを見せるミシェル・ヨー(ティンチとの究極の酒の勧め合いは必見!!)
や白シャツに収まりきれない筋肉のラスボス感が半端ないバウティスタ、
ひょっこりトニー・ジャーとスピン・オフとは思えない出演陣だが、ティンチ復活にあたりカギを握るジュリア役のリウ・イエンがとても超美人!!
中国では演劇だけでなく歌や司会もできる有名なマルチタレントらしくググってみたら最高だった。
・・・・ごちそう様でした。
調べてみたらマックス・チャンは「大脱出3」でスタローンと共演が確定したらしく俺の人生の楽しみが一つ増えた。漢の中の漢スタローンとの漢気対決が見ものだ。
最後に、SNS中心の現代では承認欲求が溢れ返っている。
女に困っていないアピール。
加工バッキバキの自撮り。
昨日までバリ島だったはずなのに翌日にロンドンにいる旅行好き。
リボ払いでフィギュアの大人買い。
試写会呼ばれて業界人気取り。
具体的にアカウントを挙げるとまず@・・・やめておこう。
過度な奴こそ炎上するが誰にでも承認欲求はあるだろう。
俺も承認欲求がピークだった頃、Facebookのプロフィール画像がアウディとのツーショットだった時期がある。
もちろんアウディは自分の車じゃない。親の車だ。
実際は車を持っていなかった。
今は車こそ持っているが、中古で50万の軽(ミラジーノ)だ。
カーナビがなくてカセットテープデッキがついている。
運転していると思いっきり無理な割込みをされる。
舐められまくっている。
話が逸れたが、「マスターZ」での名言を紹介したい。
「武術は優劣を競うものじゃない」
「幸せはシンプル。毎日好きな事ができればそれで幸せ」
少しだけ心が楽になったのではないだろうか?
例えば映画なら観た本数やレーザーIMAXの劇場で観たかどうかなんてどうでもいい。
人と比べずシンプルに自分の幸せを追求しよう。
マスターZは現代社会で生きる事とは何かを教えてくれる人生の教材だ。
とりあえず承認欲求をこじらせてる人はまずこれを買おう。
木人!!