社会に「痛い奴」の烙印を押された人間の先。「ジョーカー」

「痛いおっさん」は普通に生きる事も難しい。ダウナー必須の劇薬!!

「ジョーカー」は劇薬だ。久しぶりに映画を見て気分が滅入った。

すごい内容。アカデミー賞を総なめしても逆に全く賞が取れなくても驚かない。

この映画がきっかけで事件の1つや2つ起こるかもしれない。

DCといえば「ハリウッドが全力で作るキン肉マン」「アメリカのゆでたまご先生」と我々ビーパワーは応援してきたが、今回は少し路線が違う。

この度ワーナーブラザーズさんより正式に「DCアンバサダー仮」を承諾※頂いたので 映画公開前にネタバレを踏まない範囲で先日試写で観させて頂いた「ジョーカー」 について紹介しようと思う。

※先日”DIE”sukeさんが「なんでビーパワーがDCアンバサダーじゃないんだ!!」と直訴というかウザ絡みしたところ、ワーナーブラザーズさん的に「勝手に名乗ってろ!!」というノリだったらしい。そろそろ嫌われるんじゃないかと心配しているが、いつも地方に住んでいる俺にまで関西での試写会があれば案内してくれたりするから良い会社だ!!転職させてくれ!!

ジョーカーといえばヒース・レジャーが演じた「ダークナイト」がおなじみ。完全にバットマンを喰った存在感。撮影後にヒースが精神に異常をきたして死んでしまった事や死後にアカデミー助演男優賞を受賞したので公開から11年経った今は神格化されている。多分このサイトに来ている人は一度や二度は観たと思う。

今までジョーカーというのは具体的な生い立ちがあまり描かれていない。「キリングジョーク」で売れないコメディアンが不幸が続いた結果という描写はあったが、少しだけだ。

ヒースが演じたジョーカーも冒頭から暴力的で、常識が一切通用しないサイコパス的な描かれ方だったのでオリジンについては触れられなかった。(本人は傷の理由を語っていたが毎回異なっていた。)

今回のホアキン・フェニックス演じる「ジョーカー」は善良な一人の男が狂っていくまでを悪趣味にも懇切丁寧に描いている。本作はR15指定だが、暴力や性描写が原因じゃなくて「いじめられ方が生々し過ぎるから」が原因なのではないかと思う。

まず、ゴッサムシティが舞台だがいつものように犯罪が溢れ返ったり異形の物が裏世界を征服していない。景気の悪さからゴミ収集車がストライキをして、町中にはゴミが溢れ返っている。 福祉は打ち切り、貧富の格差が広がっている

そんな街でアーサー・フレックはコメディアンを夢見て毎日を生きている。

貧乏、独身、友達なし、母親の介護、仕事先では心ない言葉を浴びせられたり、陰湿な嫌がらせをされている。バスの中で子供に話かけると母親に気持ち悪がられる。

生まれた時からハードモードなゲットー暮らしだが、生活環境を恨まずつらくなると笑うようにした結果、緊張状態が続くと発作で笑い続けてしまう持病になってしまっている。その持病が彼をさらに孤立させる。

まるで「タクシードライバー」のジョディ・フォスター抜き、 安藤サクラと松岡茉優不在の「万引き家族」のようなハードコアな状況の中、コメディアンで成功する日を夢見て、同じボロアパートに住むシングルマザーに淡い恋心を抱き日々を生きている。

先ほど「生々しい」と書いたが本作のジョーカーは悪のカリスマでも化学薬品を浴びて身体に異常を起こした者でもない。ただの「ちょっと痛いおっさん」だ。

最初は何故監督が「ハングオーバー」シリーズのトッド・フィリップスなのか不思議だったが、観ているうちに納得した。

「ハングオーバー」でザック・ガリフィアナキスが演じたアランは40歳を超えて実家暮らしのニート。両親に甘やかされ続けた結果、引きこもり気味で友達はいない。すぐすねるし、ピンチになったら泣き出すし性格はまるで子供。実際にいそうなバカ息子を集約したようなキャラだった。

アランが親だけには偉そうな所とか妙にリアル。よく考えたら初の監督作品がGGアリンのドキュメンタリーだし、トッド・フィリップスはもともとアンダーグランドというか社会になじめない人を観察するのが好きなのだろう。普段からツイッターとか2ちゃんねるとか見まくっていると思う!!

「ハングオーバー」では「痛さ」「きつさ」を笑いに変えていたが、本作では徹底的にアーサーの悲劇のような人生を助長している。DCの映画やコミック以上に「ハングオーバー」シリーズを観てみるとより楽しめると思う。同じ監督、同じ「痛いおっさん」という題材で全く違うから。

アーサーは決して悪い人間ではないが、身なりはみすぼらしいし、髪型とか笑い方とかどことなく気持ち悪さがある。独り言をぶつぶつ言いながら古本屋で延々漫画を読んでそうな雰囲気だ。

 個人的にトッド・フィリップスやっぱすごいなー悪趣味だなーと思ったのがアーサーがお笑いライブに行ってネタの研究をするところ。アーサーはオチの部分では全く笑わず、誰も笑っていないところで爆笑する。そしてノートにメモした内容は「下ネタは堂々と言えばウケる

たった数分だが、アーサーの感覚がずれている事がよくわかるシーンだった。

痛いおっさんだけど決して世間を恨まない善良なアーサーに、仕事の解雇を皮切りに次々と悲劇が襲う。自分は何も悪い事はしていないのに・・・少しずつアーサーがジョーカーに変わっていく。惨めな思いをするたびに今まで抑えていたものが切れていく。

アーサーが壊れるきっかけでも生々しかったのが、自分のお笑いライブの様子をバカにされる形でテレビで特集されるところ。現実社会でも痛い奴はすぐに拡散される。迷惑行為をしている奴など世間に晒されるべきものもあれば、何も傷つけていないのに公開処刑されている人がいるのも事実。

久しぶりに本気のロバート・デ・ニーロが観れた!!決してアン・ハサウェイに優しいおじいちゃんではない憎たらしさ満点のデ・ニーロを!!

ピエロのメイクをしてテレビに出たアーサーが本音をぶちまけるシーン。多かれ少なかれ共感する人は多いだろう。そして今まで世間から見向きもされなかった男が初めて満たされる自己承認欲求。

圧倒的なクライマックスに感動と同時に見ている自分も心の暗い部分を引き出されていくようでどっと疲れた。

日常で起こる理不尽や苦しみが人を変える。今回のジョーカーは漫画の中だけのヴィランではなく、誰の中にでもいる。2時間通して心の闇をあぶりだす劇薬だ。とはいえきちんとDCコミック原作の映画らしく出来ているのがこれまたすごい!! バットマン好きなら思わずニヤリとするシーンが出てくるぞ!!

既にアメリカでは公開に先駆けて警戒態勢がとられるのも理解できるが、「ジョーカー」で救われる人間は少なからずいるだろう。自分の代わりにアーサーが爆発してくれるのだから。

俺も先日会社で席替えの話になった時に、職場の女の子たちに「俺の隣に来たい人はどんどん自分から言ってね!!」と話した結果、一番端の席に追いやられていたのだが、今も白塗りをせずに毎日出社している。

10月4日「ジョーカー」の負のエネルギーに取り込まれないように覚悟を決めておいて欲しい!!

そして「ダークナイト」の時みたいに「善悪」とはをしたり顔で語る自称映画好きのインテリや 「俺のための映画だ」と勘違いするイキリオタク、コスプレしてハロウィンでナンパに励む男が 爆増する未来が来ない事を祈ります