インターネットのない時代に戻りたい。とたまに思う。
毎日新しい情報が入ってくる現代、ありがたい事ではあるが、情報が多すぎて1つの物をささっと消化してしまいがちになった。
子供の頃の情報源はテレビと本だけだった。
さらに金はなく時間は無駄にあったという事もあり、1本の映画、1枚のアルバム、1本のゲームを何か月も楽しんだ。
時間をかけて楽しむと自分の中に沁み込むように入っていく感覚がある。
その点で「ジョン・ウィック」は子供の頃のような情熱で楽しんだ作品だった。
俺がYoutubeで見つけたクラブでの銃撃戦シーンに衝撃を受けた時、日本での公開予定はまだ未定だった。
今まで見たことのないアクション、そして子供の頃大好きだったキアヌ・リーブスの久しぶりのヒット作という背景もあり、生まれて初めて個人輸入をして海外版のブルーレイを購入し、一時停止しては英語を調べて何時間もかけて観た。
しばらくの間、会う人皆に「ジョン・ウィックがヤバい」と言っていた。
日本公開前のある晩、”DIE”sukeさんの家に泊っていた俺は家から持ってきたジョン・ウィックを再生した。
「これは絶対に好きになる映画ですよ」何度も観て全てのセリフを訳せるようになっていた俺は良かれと思いその場で吹き替えした。
後日、”DIE”sukeさんが当時を振り返ってこう言った。
「確かに映画は最高だった。ただ、俺が初めて観た「ジョン・ウィック」は登場人物全員が関西弁で話していた」と。
そんなジョン・ウィックも3作目。
亡き妻の最後のプレゼントである犬を殺されたためにマフィアを一つ壊滅させた1作目
裏社会の「退職しても一度だけ雇い主からの依頼を受ける」という泣きの1回ルールを無視したら家を爆破されたので皆殺しした2作目。
今回はついに裏社会から出禁になったどころか世界中から狙われる事になった。
1~3作目でおそらく約1~2週間の出来事。ジョン・ウィックは濃密かつ命の価値がデフレ状態の時間を過ごしている。
映画において3作目というのは鬼門だ。
3作も作られるとなると立派な人気シリーズだが、3作目ゆえ作風が変わったりして批判されがちだ。
サム・ライミ版「スパイダーマン」ではピーター・パーカーは大いなる力には大いなる責任が伴う事をド忘れしていた。
ランボーも「怒りのアフガン」ではベトナム帰還兵の苦悩をド忘れしてマッチョな殺人兵器になっていた。
「山猫は眠らない」に関してはいい加減寝て欲しかった。
「ジョン・ウィック パラベラム」の試写会に呼ばれた時、めっちゃ嬉しかったがさすがに勢いは落ちてるだろうと腹をくくっていた。
ところがどっこい‼︎人類始まって初であろう本での殺人、ナイフでの人間ダーツと時間がたつにつれてわらしべ長者ばりに武器がグレードアップしゴリゴリの殺人オリンピックが絶賛開催中だった。
めっちゃ濃い試写会の案内状
思えば2作目で「鉛筆だけで3人殺したなどジョン・ウィックに関する噂は全て控えめに語り継がれている」と自らハードルを上げて楽々とクリアしていたが、本作についても「殺し屋全員で挑んだとしてジョン・ウィックとは五分五分」と抜群のツカみからはじまり、その言葉通りの荒くれっぷりだった。
本作はキアヌはもちろん、魅力的なキャラクターが溢れている。
御年53歳と思えない美貌とアクションを決めてくれたハル・ベリーもヤバいがハル・ベリーに飼われている犬もヤバい。
犬の映画といえば、かわいいか泣けるのが相場だが、ハル・ベリーの犬たちは防弾チョッキを身につけハンドガンで撃たれてもへっちゃら。飼い主の命令を忠実に守り確実に相手の喉か股間を噛みちぎる。
おそらく本作はこのワンちゃん達だけで1作目のキルカウントを超える勢いだった。
「僕のワンダフルライフ」以上にワンダフルなハル・ベリーと犬たちの絆。
違いは死体が大量生産されるだけだ!!(ちなみに馬も頑張ります)
また殺人寿司屋ゼロことマーク・ダカスコス
・店のBGMがきゃりーぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」
・部下の殺人寿司職人たちが「ザ・レイド」の2人(レイド組の活躍っぷりはすごい。シンデレラガールならぬシンデレラオッサン」
・「アベンジャーズ:エンドゲーム」のジェレミー・レナー以上にクセが強い日本語(「オレハ オマエトオナジ コロシノタツジン!!」はついマネしてしまう)
ジョン・ウィックとの死闘は殺陣ひとつひとつが見事で殺し合いのはずなのにさわやかだった。
そして殺し屋アパホテルことコンチネンタルの本気のおもてなし
大抵ホテルのアメニティといえばバスタオルやら歯ブラシだが、こっちは銃やナイフだ!!
クライマックスでのコンチネンタルでの銃撃戦、まさかのあいつが銃ソムリエに就任してからの殺人チェックインはシリーズ最高レベルのお祭りだった!!
ズボンがずり落ちるんじゃないかってくらい大量のマガジンを装備して挑むジョン・ウィックだが、裏社会の刺客達の防弾力が高く「弾が効かねぇ!!」とブチ切れてまさかのハーフタイムを取る。
一昔前のゾンビ行為がひどいサバゲーみたいなシチュエーションに懐かしく感じたのだが、運営にひとしきりキレた後のジョン・ウィックの動きは早かった。
確実に顔面を破壊するショットガンで第2ラウンドに挑むくだりは必見。
映画史上に残るショットガンが観れる。
今回、殺し屋組合全体から命を狙われることもあり、さすがのジョン・ウィックも妥協したり不利な契約を結び付けられる。いつも以上に人命を粗末に扱って窮地を切り抜けていくが、映画が進めば進むほどジョン・ウィックがヤケクソになっていく。
特に裏社会のトップである首席達からブラック企業ばりに理不尽で主席アンバサダーである丸刈り女の上から目線対応は、まるで社長直属の経理部のお局のようでかなりムカつかせてくれる。(ウィンストンもかかってきた電話をワン切りするなど反抗するほどだ)
色々あり過ぎてヤケクソ度マックスになったジョン・ウィックの決断。4作目が確定した今だからこそ鳥肌もののラストシーンだ。
きっと(死人が出るという意味で)想像した以上に騒がしい未来がジョン・ウィックを待っている。
「カッコいいとはこういうことさ」
かの宮崎駿の「紅の豚」のキャッチコピーだ。
この作品で宮崎駿は彼自身の思う「カッコいい」を追求したが、ジョン・ウィック:パラベラムはハリウッドが作る「カッコいい」の一つの到達点だ。
男とは自分の思う「カッコいい」を探し続けるのが人生だと思う。
カッコいいとはこういうことさ。ドヤ顔で本作をおすすめしたい。
先日、キアヌ・リーブスが来日した時にいつもお世話になっている映画宣伝会社の方に一つのお願いをした。
「キアヌにBe Power Hard Boiled IS My Favorite Web Siteと言ってもらって動画で撮ってきて欲しい」
後日「無理に決まってるでしょ」とやや切れ気味の返信が返ってきた。