ジョニー・デップの新境地。おっさんはくじけながら戦う生き物。「L.A.コールドケース」

「あぁ、ジョニー・デップに生まれてたら幸せだっただろうな。」

誰もが一度は考えた事があるのではないだろうか。

男女問わず見とれるほどのカッコよさ。

とんでもない名声及び財力のオーナー。

俺が大学生の頃はロン毛、メガネ、ベスト、ダメージジーンズという量産型ジョニー・デップが大量生産されていた。(というか今でも街を歩けば量産型デップに出会う。)

本業の映画で大成功しているどころか、音楽活動もアリス・クーパーやジョー・ペリーといったロックスター達とハリウッド・ヴァンパイアーズを結成。

超有名ミュージシャンとバンドを組み、ヴィンテージギターでロックのクラシックを演奏している姿はめちゃくちゃ羨ましい。

最近は色々あったのでお疲れな様子も見せていたが、裁判も落ち着きジェフ・ベックとアルバムを作ったり仕事も趣味も絶好調なデップさん。

存命の人物の中でも最高レベルで全てを持っているのは間違いないが、8月5日に公開された
「L.A.コールドケース」を観て印象が良い意味で大きく変わった。

本作は2大ラッパー殺害の未解決事件をテーマに実在した元ロサンゼルス市警察の刑事ラッセル・プールをジョニー・デップ。事件を追う記者ジャックをフォレスト・ウィテカーが演じるサスペンス。

人気ラッパーの2パックとノトーリアス・B.I.G.殺害事件といえば、未解決事件として有名な事件だ。

題材にした作品も多く現在(2022年8月6日時点)でも

Netflixで
「Unsolves:未解決ファイルを開いて」
「ノトーリアス・B.I.G -伝えたいこと-」

Amazon Primeで
「誰が2PACを殺したか? 殺害事件の真実」

が配信されている。

これまでは二人の伝説的ラッパーの太くも短い生涯にスポットライトを当てた作品が多かったが「L.A.コールドケース」は事件の裏側にフォーカスした作品だ。

ノートリアス・B.I.G.殺害直後の1997年3月と18年後の2015年の2つに分かれて話が進む。

本作だが2018年に完成しておきながら本国でも公開されたのが2021年3月。

原因は世間を賑わせたデップの離婚裁判やら、本作の撮影中にデップが暴力をふるったなどと言われているが一番の原因は「触れたらあかん闇に思いっきり切り込んでいるから」だろう。

これだけ被害者が有名人なのに犯人がわからないのが不思議に思っていたが、観て納得。

完成した時に何人か消されたんじゃないかってくらいぶっ込んだ内容なのが公開が遅れた一番の理由だと思う。

実際、捜査を担当したラッセル・プールは失職、それでも独自に捜査を続けている。

仕事も家庭も失って人生が積んでいる男をジョニー・デップが演じるので観る前はどうなのと思った。

少なく見積もっても俺の1億倍は幸せな人生を送っている。

自分の人生を振り返ると何なら俺が演じた方がいいんじゃないかと、クダを巻いたがそこはデップさん。

完璧に人生が積んだ男を演じきっていた。

体型、表情、声。何もかもがくたびれていた。

特に目つきは人生をあきらめきった男のそれだった。

L.A市警のエリートには相手にされず、子供とも疎遠。そんな男の哀愁が滲み溢れていた。

相棒の記者役のフォレスト・ウィテカーもいつでも目が悲しそうだった。

若いころに賞を取ったがその後はパッとせず、職場では慕われていない。(俺と一緒だ!!)

しかも肩掛けのバッグに昔頑張って買ったであろう革ジャンがまるで休日の俺なので直視できないほどだった。

世の中「おじさん」ブームかもしれんがそんなおじさんは一握りだ。
大半の男は悩みを抱え、理想とはかけ離れた人生を必死で生きている。

会社では相手にされない。家庭もうまくいっていない。

頑張っても頑張っても報われない。

それでもくじけなかったらカッコいいが、二人は普通のおっさんなのでくじけまくる。

くたびれたおっさん同志で子供のようなケンカをしたかと思えば励まし合う。

くじけながら頑張る。

みっともないのだが泣けてくる。

実際、事件は未解決のままだが、おっさん達は爪痕を残す。

10代、20代の青春真っただ中の方にはハマらないかもしれないが、30も後半になってきた俺にはめちゃくちゃ刺さるものがあった。

このドレッドヘアの方は実はFBIの潜入捜査員。

真面目なFBI職員のはずなのに仕事のためにバッキバキのギャングスターライフを過ごしている。デップさんとウィテカーさんに負けない頑張るおっさん。

こいつの「世の中舐めてるっぷり」にも注目して欲しい。平日の昼間からBBQパーティーしている奴はロクなやつがいねぇ!!なんやその態度、まず服着ろ!!

本国から遅れる事1年半、完成から考えると4年経ってようやく日本でも観れるようになった。

めちゃくちゃヒットする映画ではないだろうが、俺は大切にしたい。そして一人でも多くのくじけてるおっさんの目に留まれば嬉しい。

もしあなたが人生にくじけているなら近くの劇場で観て欲しい。できれば遅い時間に。

そして暗闇に紛れて人知れず涙を流せばいいだろう。

帰り道、涙を拭いて缶コーヒーでも飲んでくれ。

明日から人生に立ち向かう元気が湧いているはず。

実生活では裁判も無事終わりまた人生が上り調子になってきたデップさんだが、パパラッチされた写真を見ると担いでいるギターケースが決して高価でない普通のケースだった。

哀愁が出てきたデップさんに注目だ。(ギターくれ!!)

『L.A.コールドケース』
8月5日(金)
ヒューマントラストシネマ渋谷、グランドシネマサンシャイン 池袋
他全国順次公開
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配給:キノフィルムズ
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© 2018 Good Films Enterprises, LLC.
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出演:ジョニー・デップ、フォレスト・ウィテカー、トビー・ハス、デイトン・キャリー
監督:ブラッド・ファーマン(『潜入者』『リンカーン弁護士』)
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原作:ランドール・サリヴァン「LAbyrinth」 脚本:クリスチャン・コントレラス
2018年│アメリカ・イギリス│英語・スペイン語│112分│カラー│スコープ│5.1ch│G│原題:CITY OF LIES│字幕翻訳:種市譲二
© 2018 Good Films Enterprises, LLC. 提供:木下グループ 配給:キノフィルムズ
公式HP:https://la-coldcase.jp/ Twitter:https://twitter.com/kinofilmsJP