完全燃焼中学生パワー 『マッドマックス:フュリオサ』

年を取るほど得るものもあるが、失われるものもある。

中でも「なくなっちゃったなぁ」と寂しく感じるのが「中学生パワー」だ。

みっともないが奥底から湧き上がってくる想像力。

夜中にエアガンをジャンパーの内ポケットに入れて家の周りをパトロール(いまおもえば見つかるとヤバい)
ガンプラを組み合わせてオリジナルMSの製作
キンケシで俺だけの超人オリンピック開催

まぁ生きていく上で必要かと言われたら全くいらないし、社会で生きる上でむしろ捨てないといけないのだが人生を楽しむ上で必要な能力だと思う。

そして世の中には世界を感動させる中学生パワーを持った持ち主が存在する

それがジョージ・ミラーだ。

34歳の時「マッドマックス」を製作。
「マッドマックス2」「マッドマックス:サンダードーム」と立て続けにシリーズがヒット。

荒廃した世界の描写はここ日本でも「北斗の拳」の元ネタになるなど世界中に「終末世界ブーム」を作り出した。

おそらく今もこの世界のどこかで「マッドマックス」を観て世紀末に備えてはいるが、世紀末が来る気配はないのでそっと生きている人間は8億人くらいはいるだろう。

その後は「ベイブ」「ハッピーフィート」など親子で楽しめる作品を作っていたが、「子育てが落ち着いたので気持ちがマッドマックスに戻った」という理由でマッドマックスに帰還。

「怒りのデスロード」は過去3作を遥かに超える景気の良さと命の軽さで映画の形をしただんじり祭だった。

かつて映画秘宝にて「こんなに猛スピードの映画を作るなんて本当に70歳ですか?」という質問に「心は常にティーンエイジャーだよ」と最高すぎる回答をかましてくれた御大がなんとマッドマックスのスピンオフ「フュリオサ」を作ってくれた!!

本編ではなくスピンオフ。

監督も80歳を目前なのでさすがに落ち着いた作りだろうと思いつつ試写で観させて頂いたが、やられた。

車検ガン無視、ゴリゴリに武器を積んだ改造車。

尖り過ぎたファッションの歌舞伎者達

水分ゼロ、乾きまくってる荒野

360度荒れててカッコいい

正真正銘「マッドマックス」だった。

今回は時間もお金もあったのだろう。

これまでジョージ・ミラーが「やりたかったけど出来なかった」ことを全てをやりきっているのを感じまくった。

名物の改造車は荒野を走るだけじゃない。
ファンの期待に応えるかのように今回は整備シーンや搭載武器の紹介も時間をかけてたっぷり収録。

もちろんカーナビはついてないけど武器はたっぷりあるぜ!言わんばかりに鉄球や火炎放射で世界が認めた煽り運転は健在!!

まるで18禁のマリオカートだった。

「世紀末の勝ち組」イモータン・ジョーはもちろん、
「世紀末のこじれた若者」ウォーボーイズ、前作でもっと観たかった人食い男爵も武器将軍もたっぷり登場。

「ジョー様のために派手に死のう!!」とシタデルのいき過ぎた体育会系のノリは健在。

あいつらのセリフが増えたところで共感できるところはさっぱりないが、荒廃した世界での心得は学べた気がする。

ジョージ・ミラーの本気に影響されたのだろう。
キャスト達にも影響が出ていた。

まず本作の悪役であるディメンタス将軍演じるクリス・ヘムズワース。

ご存知の通り世界的に有名なさわやかマッチョだ。
好感度の塊のような彼なので悪役をやってもダーク・ヒーロー的なものになるだろうと思っていた。

まさか人生でこんなにクリヘムが嫌になるなんて。暴力的以上にただただ性格が終わってる。

観賞後は家に飾っているソーのフィギュアをエアガンの的にして最後は燃やしてやる!!と思ったがホットトイズなので思いとどまった。

そして主人公フュリオサを演じるアニャ・テイラー=ジョイ。

なんつーかその…オシャレ映画垢がこぞって「天使」とか「尊い」とか言って持ち上げているので全く興味がなかった。

絶対シャーリーズ・セロンの方が良いのに…

話題性があるからこのキャスティングなのか?

と思っていたが、俺は今YouTubeの彼女のバッグの中身の動画を観ながらこの記事を書いている。

アクションが派手とか演技がすごいとかそういうのではない。

彼女が演じるフュリオサは人間ではなく「鬼」だった。

どんな役作りをすればこんな事になるのか…撮影中、マジで泥水を飲み、その辺のミミズやトカゲを食っていたのだろうか。

酒が入ってパパラッチに殴りかかった初代マッドマックスのメル・ギブソンより目が座っているアニャ姐さんを見てオシャレ映画垢達が壊れないか公開前から余計な心配をしている。

詳細はネタバレになるので伏せておくがめちゃくちゃ好きなシーンがある。

ある人物が「復讐なんてしても死んだ人間は帰ってこないし、虚しくなるだけ」と語るシーンがある。

しかも劇中の結構な時間を割いている。

「復讐の無意味さ・・・暴力を描かせたら完璧なジョージ・ミラーがそういう事言うんだから説得力があるなぁ。深いなぁ!!」
とうなずきながら思いながら観ていたのだが、俺が甘かった。

「復讐の無意味さ」に対する衝撃の答え合わせはきっと20年後、30年後も語り続けるだろう。

普段どれだけムカつけばあんな事を思いつけるのだろうか。

モータルコンバットのキャラクター達も「それはやり過ぎだろ」と言うだろう。

ドン引きしながら笑いが止まらないという貴重な経験が出来ました。

過去4作にはあった「本当はもっとはっちゃけたいけど、あくまでビジネスだし映画としてきちんと作らないと」という大人な側面が消滅!!

ジョージ・ミラーが「中学生の頃に思い浮かべたいつか作りたい映画」をやり切った本作。

公開前からジェンダーやらフェミニズムやら不穏な意見もあるが

・ジョージ・ミラー(79歳)の中学生パワー

・不倫もドラッグもしていないのに好感度が急降下するクリヘムの演技

・「鬼」になるアニャ・テイラー=ジョイ

・「復讐」について衝撃の答えあわせ

と「運転をミスって車を傷つけても気にならない」「世紀末を生きる勇気が出る」「10代の頃のような胸の高鳴り」と観たらとにかく元気になれることは間違いないです。

5月31日(金)公開!!