デンジャラス囲碁「鬼手」

おもしろい映画に大切な要素といえば何を思いつきますか?

・ロジックの整ったストーリー
・豪華なキャスト
・これまでに見た事のないすごいVFX

色々あると思いますが、俺は「作品のテーマをド忘れして暴走する。」を挙げたい。

一歩間違えれば駄作、世間からの誹謗中傷の嵐になるところだが、奇跡的に成功させている作品は確かに存在する。

例えば「ワイルドスピード」

シリーズ当初こそレースに命をかける者たちの物語だったが、4作目の「ワイルドスピードMAX」から「車と元気があれば何でもできる」路線にシフト。

「ワイルドスピード スーパーコンボ」に至ってはスピードも車も忘れて筋肉サマーウォーズだったが、世界中を熱狂させた。

「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」も同様だ。
ゴジラといえば「水爆実験が生んだ怪物」として核の恐怖が根底にあるが、本作では、核爆弾はゴジラの眠気覚ましとして使用。

核爆弾だけでなく、シリーズの最強兵器オキシジェン・デストロイヤーも稟議申請する事もなく、現場の判断で気軽に打ち込んでいたせいかゴジラも65年の映画人生の中でも断トツのブチギレ具合。

最大のライバルであるキングギドラを焼き殺したどころか、街も消滅に近い状態にしていたが、最終的に他の怪獣のみならず人類のリスペクトも勝ち取っていて結果オーライだった。

な!?実在するだろ!?

そんな「テーマド忘れ暴走映画」の歴史に新たな作品が刻まれた。

それが今回紹介する「鬼手(「きしゅ」と読む。「おにて」じゃない)」です。

ストーリーは囲碁の天才棋士が裏社会の強豪たちと勝負する映画。

囲碁と言えば、「ルールがややこしいオセロ」「おじいちゃんがするゲーム」くらいの
認識しかないため、専門的な知識で説明することはできない。ということで「ゲームをテーマにした作品」という点で紹介する。

ここ日本でもゲームで過激な戦いをするという意味では「遊戯王」という国民的マンガがあるので、観賞前はだいたいそんな作風かなと思っていた。

劇中の冒頭で家族を失い孤独な少年が、山籠もりして盤面を観なくても囲碁を打てるようになるまで特訓。

成人してからは上半身裸で宙づりになった状態で腹筋している。

主演のクォン・サンウが囲碁をする上で絶対に不要な鍛え上げた筋肉を披露しても、決して驚かなかった。

はっきり言って俺が浅はかだった。

この画像を見てあなたはこれが「囲碁をテーマにした作品」だと認識できますか?

試合内容がどうかしている。

・霊を降臨させて勝負。負けたらその場で片腕切り落とし
・拷問装置付きの盤で勝負。負けたら装置から硫酸が飛び出し失明
・線路上で勝負、これについては勝っても負けても電車が来たら人身事故。

「これは囲碁の映画だよな??一体何を観ているのか?」と感情が揺さぶられ過ぎていたのだが、霊を降臨させて勝負の時に事件は起きた。

この試合、碁石が一般的な白黒ではなく透明と少し白っぽい透明という、何故これをチョイスしたのかと思う程わかりにくい状況だった。

負けたら片腕を切り落とさないといけない、心霊現象も起こっているという勝負の中で、
見物していた主人公のパートナーが「(盤面がわかりにく過ぎて)どっちが勝ったかわからねーよ」と冷静につぶやく。

まさかのマジレス!!

この瞬間俺は「鬼手」への絶対服従を誓った。

もっと、ください・・・俺は調教された奴隷のように腰をくねらせる事しかできなかった。

そして、期待に応えるかのようにブレーキが壊れていくストーリー。

便所で大乱闘が起こった時は主人公は碁石を袋につめて、武器として振り回していた。

囲碁をしていたはずなのに気づいたら溶鉱炉で殺し合いになっていた。(溶鉱炉で死闘なんてターミネーター2以来だ!!)

遊戯王のカードデュエルが健全な遊びに思えるほど、全編に渡り血なまぐさい。

予告も秀逸なので、以下をクリックして観て欲しい。

「腹筋の割れ方が碁盤」
「溶鉱炉で戦う設定についてどうすればリアルに見えるかとても悩んだ」
とトチ狂った名言が連発するが、誰もふざけていない。(クォン・サンウは体脂肪9パーセントという肉体で撮影に臨んだらしい。)

とどめがこれ。

「生死をかけて作りました。」

囲碁を忘れてるどころの騒ぎではない。映画を作っているという事すらド忘れ。生きるか死ぬかになっている!!

これがアスリートでいうところの「ゾーン」なのか?

こんな極限状況で作った作品がおもしろくないわけがない!!

劇場公開数が少ないので見に行くのが難しい方はたくさんいるだろう。

甘ったれるな。

映画を観る観ないじゃない。

俺達も生きるか死ぬかで考えようじゃないか。

先日、法事で親戚が集まった時の出来事、小学生のいとこの子供が授業で昔の遊びについて調べているらしく「このまえ友達と囲碁で遊んでみてん、おもしろかったから一緒にやろう」と言われた。

俺は答えた。

「いや、まだ死にたくないから無理」と。