片腕カンフー対空飛ぶギロチン

皆さん、香港にて天皇巨星と呼ばれる俳優をご存じだろうか?

知らないか!そうか!

じゃあ、この話はなしだ!

久しぶりに…ていうかかれこれ5億年ぶりにビーパワーに来て『藪から棒に何だ!?』と言われるかもしれんが、今回は伝説の香港俳優=ジミーウォングの『片腕カンフー対空飛ぶギロチン』を御紹介したいと思いますよ。

 

まず作品を紹介する前にジミー・ウォング(以降ジミーさん)について説明しようと思います。

凄い横分け、そして目が全く笑っていないビジュアルが印象的な、この俳優。

 

もともとは水球選手だったらしいが試合で乱闘騒ぎを起こし電撃離脱。

そこから俳優に転身したという、実にアグレッシブな経緯を持っている。

生来のアグレッシブさのおかげか、俳優業とは別に黒社会とゴリゴリに繋がった裏の顔も持つという、主演作品の設定以上に属性がマシマシな男—それがジミーさんなのだ。

 

 

 

有名なエピソードだとプロダクションとの契約問題で黒社会と揉め、窮地に陥ったジャッキーをジミーさんが倍の黒い力で救出。

おかげさまでジミーさんが製作する『ドラゴン特攻隊』『炎の大捜査線』にジャッキーが出演するのだが、当時は「おいおい、ジャッキーの無駄遣いだろ…」と鑑賞当時は疑問に思ってしまったのは言うまでもない。

だが今なら分かる…うん!そういうことだな!

まさに天皇巨星の名は伊達ではない!

 

気が付けば思わずさんづけする2大俳優はドニーさん、そしてジミーさんと相場が決まったのであった(俺の中で)

だが、ジミーさんのスタントはカンフーというより、よく言えばリアルファイト寄り、悪く言えばズバリカンフーじゃねえ!という欠陥を正直抱いていた。

 

とはいえブルース・リー登場以前よりカンフー映画の立役者として活躍していたジミーさんであったが、リーが思いのほかにマジなカンフー映画を出すに至り「これはマズい!」と思って作ったであろう作品ーーーそれが『片腕カンフー対空飛ぶギロチン』である。

 

 

 

タランティーノがキルビルでオマージュした作品の一つとして一時期話題になった本作。

当時の俺は真面目なシネフィルだったので「タランティーノ位見とかなきゃ!」と限定版キルビルのDVD-BOXを購入、フーンなんて言いながら物知り顔でブックリーフを読んでいたのだが、ある文字列が俺の目に飛び込んできた。

『片腕カンフー対空飛ぶギロチン』

どうだろう?この直球過ぎるタイトルは。

まあ片腕は理解できる。

だが空飛ぶギロチンって何さ!?

果たして、どんな映画なんだ!?

俺の期待は膨らんだが、実際このタイトルが全て!としかいいようがない内容なのだった。

そんなことを知ってか知らずか、気が付けばキルビルのDVDBOXで猛烈に減ったなけなしのバイト代を投下!

正直、買った帰りしなに「何で買ったんだろう…」と思わずにはいられなかったが、いざ蓋を開けてみると、本作は言い知れぬインパクトを俺に残した。

「すげえ!こっちのが100倍おもしれーじゃん!」と。

何ならキルビル以上に回数を重ねて観てしまうほどのパンチ力を本作を秘めていた。

かつてタッグパートナーのデップーさんが俺の家に泊まった際、深夜1時という実に気の狂った時間から本作を無理矢理見せて「何やねん!これ!」と言わしめたのは良い思い出である。

まあ今考えると嫌がらせだな!

 

雑に説明すると、片腕カンフーことジミーさんが立ち塞がる強敵を屠っていき、空飛ぶギロチンと雌雄を決するのが本作の主なあらすじだ。

元々ジミーさんの名が売れたきっかけになった『片腕必殺剣』をカンフーでやろう!という実に安易な発想で製作された片腕ドラゴン(こっちはこっちで内容は負けていない)の続編の本作。

 

引き続き、本作でもジミーさんは片腕の武闘家を熱演。

前作では幾分かフェアプレイ精神があったが、本作では敵を閉じ込めた家を放火、飛び出す斧を仕込んだ棺桶屋のラストバトルなど、主人公としてどうなのかという行動を平気で行うのがタマらない。

もうフェアプレイの『フ』の字もないジミーさんなのだった。

どうやらキャラ造形を宮本武蔵によせたらしいが「よもや武蔵もここまで汚くねえだろ…」と思わずにはいられない。

あるいは重力をガン無視した壁歩きを弟子達披露し「さあ、やってみろ」と無茶ぶりにもほどがあるジミーさん。

案の定、誰も実践出来ねえのだが、誰もジミーさんを疑わないし文句も言わない辺り、「良い弟子達だなあ…」とホッコリさせてくれる。

あるいは格闘技の試合にて「ゲエーッ!汚い!」とミート君かシュウマイが言いそうな光景を目の当たりにしても「汚い手だ…俺もやってみよう!と即パクろうとするなど清々しいダーティっぷりを披露!

とにかく勝つ。

そのためには手段を選ばないストロングスタイルに目を見張ってしまうだろう。

 

当時は既にブルースリーの映画が公開され世間を座巻していた前提を考えると、「カンフーがダメならキャラ設定で押すしかねえ!」というジミーさんなりの苦労が窺い知れる。

 

もちろん宿敵の空飛ぶギロチン(以後、和尚)も負けていない。

オープニングから突然屋内で叫びだしたかと思うと屋根を突き破り、庭先で演武を披露!

ひとしきり演武を披露すると空飛ぶギロチンでニワトリを殺害、切れ味を確認すると家に放火するのであった。

観てるコチラ、そして燃えしきる自宅を尻目に念仏を唱えながら下山!

このインパクトしかない登場はどうだ?

 

 

果たして文字にして伝わるかどうかはサッパリだが、ここで乗れるか乗れないかで本作を最後まで見れるか見れないかの姿勢が問われる。

観てるコチラの動揺をお構いなしに和尚はブレーキ知らず。

盲目なのも手伝い、思いっきり人違いで片腕の人を食堂にて空飛ぶギロチンで惨殺!

「それ片腕カンフーじゃねえよ!」周りからツッコミを入れられるギロチン和尚。

「間違った…まあいい。片腕は全員殺してやる!度を超えたポジティブシンキングを全開!

ジミーさんもどうかと思うが、和尚もどうかという設定だ。

本作はそれだけに留まらず、腕が伸びるヨガ行者、チャルメラを吹きながら踊り狂うタイ人ボクサー、服に仕込んだ刀で闇討ちするサムライなどタウリン1000㎎級のキャラが勢ぞろい!

製作・監督・脚本・主演なジミーさんのサービス精神が作品に迸っている。

いずれにせよ、俺の映画を観る基準を決定づけたといってもいい本作。

最近ではブルースリーの4Kドラゴン祭りが開催されていたが、ジミー祭りもやろう!

 

家で!