色褪せない思い出と現在進行形の興奮。おかえり、マトリックス
1999年、俺は中学2年生、14歳だった。
「マトリックス」を初めて観た時本気で時代が変わったと思った。
これまで想像すらできなかった映像が目に飛び込んできた。
映画館の匂い、帰りの地下駐車場、車内から見える街の夜景。20年以上経ってもあの日の事は鮮明に覚えている
親父とじいちゃんと観たのだが、当時80歳のじいちゃんが興奮で前のめりになり最後は空気椅子のような状態で観賞していた。
「未来がやってきた。世界が変わった」となかなか寝付けなかった。
変わったのは俺の価値観だけではなかった。
実際に世界が変わった。
筋肉と気合でなんとかするハリウッドがVFXへと変わった。テレビでも「マトリックス」を意識した映像が溢れかえった。
インターネットが身近になり情報がどんどん入るようになった。
俺を含めて周りの男はみんなサングラスと黒コートを欲しがるようになった。
背筋を鍛えるやつが爆増した。
やがて男子は現実に目を向けて彼女ができるやつと取り返しのつかない腐れオタクに二分した。
続編の「リローデッド」、「レボリューションズ」も素晴らしかった。ネオが世界を救い終えると俺も大学に進学し新たな世界へと歩んだ。
いつ頃だろうか。
じいちゃん子だった俺がいつものように学校帰りにじいちゃんの家でグダグダしていると棚に一本だけ映画のVHSがあった。「マトリックス」だった。
聞いてみたら「人生で一番おもしろい映画」と言っていた
大正に生まれてサイレント映画の頃から生きてきたじいちゃんが人生で一番おもしろいと断言したのは異常な説得力があった。
じいちゃんは91歳で旅立ったがマトリックスは最後まで1位だった。
その後、友達とリバイバル上映に行ったり居酒屋で「「マトリックスが公開して映画が変わったよな」と同じことを喋っているうちに18年経過した。
2021年12月27日 「マトリックス レザレクションズ」公開。
「レボリューションズ」から18年、今となってはマトリックスレベルのVFXはごまんとある、子供でもwifiの設定ができるほどコンピュータは身近なものになった。仮想空間を誰もが楽しんでいる。
当時のようなビジュアルや設定での圧倒的な衝撃は難しい。
期待もあるが不安も大きかった。ありがたいことに一足早く観れることになった。
基本的に仕事優先なので断っている試写も多いが、今回ばかりは有無を言わさず有給を取得した。
18年ぶりの作品である「マトリックス レザレクションズ」は時間をかけた事が納得出来る内容だった。
レボリューションから5年後でも10年後でも出来なかっただろう。
頭をフル回転させないと追いつかない複雑なストーリー。アップデートされたVFX
自分でも以外なくらい、冷静に噛み締めるように映画の世界に入っていた。
何年もかけて脚本を考えたんだろうな。今あえて「マトリックス」を作ったのはわかる。
俺のような熱狂的なファンでも納得できる・・・・。
めちゃくちゃ期待していたからだろう、舞い上がることなく、自分でも嫌なファンだなーってくらい冷静に観ていたはずだった。
驚く事が起こった。ネオとトリニティがサングラスと黒いコートに身を包んだ時、そして・・・スピーカーからあの曲が流れた時。
涙が溢れていた。脳も察知していなかった体の反応にパニックになった。
「落ち着け、落ち着け」と言い聞かせても涙が止まらない。
頭の中がフラッシュバックする。
1作目を映画館で見た中学2年のあの夜、何度もモノマネしたこと。
キアヌ・リーブスになりたくて買い漁ったエアガンとサングラス、
楽しそうなじいちゃんの横顔。
「人生で一番おもしろかった映画はマトリックス」
そして今、ネオとトリニティが帰ってきた。過去の栄光を軽々と飛び越えて。
じいちゃん、マトリックスの新作は最高におもしろいよ。いつか再会したら一緒に見よう。
マトリックスはとびっきりのノスタルジーと現在進行形の興奮を引っ提げて再生した。
翌朝、俺はこの世界は全てプログラムされたものと再確認した。
俺は操られない。俺はネオだ。
仕事のトラブルも「マトリックス内のプログラムだ。」と無視し続けたら思いっきり怒られた。