※今回は映画紹介ではなく、スパイダーマンを追いかけ続けた男たちのドキュメンタリーです。
※ノンフィクションです。
※「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」の重大なネタバレが連発するので未見の方はご注意ください。
「これまで俺たちはずっとMCUを追いかけてきた。何度も驚かされた。ちょっとやそっとじゃ驚かない。」
昼間のマクドナルドで3人の男はこれから観賞する「スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム」に向けてミーティングを開催していた。
「いや・・・トビー・マグワイアが出てきたら無理かも。」
と友達のS君が遠い目をして言う。
(映画館のアルバイト時代からの友達で、基本的に俺が「友達と映画を観た。」と書いてる時は9割が彼の事。)
S君はこの日、「極度の緊張と興奮」を理由に朝10時から映画館に待機していた。
我々が映画を観るのは13時40分の回なのに。
ちなみにS君は俺の1歳下の35歳だ。
「最初のスパイダーマンもカッコいいもんな。でも違う世界の話やからなぁ」と話すのはS君の息子(9歳)。
生まれたばかりの彼を抱きながら「いつか一緒に映画を観れるといいな。」とS君夫婦と話していたが、その言葉が届いたのか2歳頃から自発的にマーベル映画を観るようになった。
言葉を覚える前からブルーレイプレイヤーの操作を覚えるようになり、
・観賞中は一切喋らない。
・なぜか字幕を好む
ことから早い段階で一緒に映画を見に行くようになる。
「生まれたのが最近(2012年)」という問題を作品を何度も観る事で克服。
まだ読める漢字が少ないという問題も巻き戻し、一時停止をして細かく観ることでクリア。
マーベルとスターウォーズに関しては我々と同等、作品によっては我々以上の知識を持つようになった。
・「ブラックパンサー」が観たいから幼稚園の卒園式が終わり次第、友達との別れはほどほどに映画館にダッシュ。
・「エンドゲーム」の後しばらくの間パンフレットや旧作を観返しては「トニーが死んでもた」と家で号泣
と狂ったエピソードも残している。
「友達がな・・・アンパンマンの話しかせぇへんねん。アイアンマンの話できる子おらんねん。」
「見たい映画いっぱいあるわー。」
「MCUはドラマもええで」
と子供っぽさゼロの発言をするので、個人的には「友達の子供」ではなく「年の離れた映画仲間」だと思うようになった。
「まぁ・・・アメイジングスパイダーマンが出てきたら僕もびっくりするわな。」
ポテトを頬張りながら話す彼を見て
「いや、・・・「僕はアメスパ世代です」的な感じで話してるけど、おまえ・・・アメスパ公開時は乳児やん。」と言いそうになったが黙ることにした。
俺(36歳)は最年長なので
「最近のマーベルってマルチバースとかなんでもありやん。
多分これまでのスパイダーマンは出てくると思う。
でもちらっと出てくるくらいじゃ驚かへんで。
ただ、スパイダーマン同士が世間話し始めたら俺も耐えられへんかもしれん」
と緊張を隠しながら冷静に意見していた。
13時25分。サム・ライミ世代2名と(本人曰く)アメスパ世代1名の3名で劇場に向かう。
「やばい、緊張してきた」というS君に「こないだ「マトリックス レザレクションズ」観て二人で号泣したばっかりやん、頑張れよ!!」と言ったが、S君息子が
「やばい、緊張してきた」と全く同じセリフを全く同じ口調で言うので「この親子はダメだ。」と思っているうちに暗転。
ミステリオに偽のニュースを流された上に正体までバラされたスパイダーマン。
緊急事態なのにメイおばさんにフラれてハッピーが落ち込んでいたり最初からお笑い風味の平常運転。
笑っていたらいきなりNetflixのデアデビルが出てきた!!
想定外のカウンターに一瞬意識を失いかける。油断してたら急にやられる。
ピーターはドクターストレンジに世界中からスパイダーマン=ピーター・パーカーという記憶を消して欲しいと頼む。
難易度が高く危険過ぎる呪文だが、一緒に世界を救った仲間なので引き受けるストレンジ先生。
いざ、呪文を始める、「MJの記憶はそのままで」「やっぱ親友のネッドも!!」「メイおばさんも追加で!!」と仕事でもよくあるトラブル=後出しに次ぐ後出し注文をするピーター。
さすがのストレンジ先生も「いい加減にしろ!!」と中断。
しかも「正体がバレたのが理由で大学に落ちたからなんとかしたい。」という理由だったので「だったらまず大学に嘆願書出せよ!!」とブチ切れる先生。
外に出てみるとなんとドック・オクが人々を襲っている!!・・・セリフもたっぷりある!!全然カメオ出演じゃないやん!!
観ている我々も衝撃を受けているが、画面の向こうでドック・オクも自分が知っているピーターじゃないので衝撃を受けている。
MCU名物「実験・呪文が大失敗」して我々がこの20年間とてもよく知る面々が大集結!!
グリーン・ゴブリンを見て「ノーマンが生きてる!!死んでたやん!!」と驚くドックに「おまえも死んだはずやん」と言い返すサンドマン。
「おまえ喋れるやん!!びっくりするわ!!」といじられるリザードに「こっちの世界では俺イケメンやん」と自身のルックスがさえないオタクではなく、いつものジェイミー・フォックスであることに感動しているエレクトロとスパイダー同窓会が開催。
隣でS君が死にそうな小さな声で「あぁ・・・」と唸っている。
「おまえのせいで時空が歪んだ!!一刻も早くこいつらを元の世界に戻そう」と観ている俺たち以上に慌てているカンババ先生を後目に「もとの時空に戻したら全員死ぬでしょ?治療して送り返そう」と親愛なる隣人精神に溢れたピーターは全員の治療を開始。
ただ、20年ぶりに帰ってきたウィレム・デフォーは自身がスパイダーマン最大のライバルであることを忘れていなかった。
当時不評だったマスクを叩き割り「違う世界に来たからといってビビるな。思い出せ。俺たちサノスよりBad Guysだろ!!」と生涯ヴィラン宣言!!
速攻でアッセンブルする悪役オールスターズ。
ゴブリンってマジでクソ野郎だったと思い出した矢先・・・あぁ!!メイおばさんが!!
隣でS君が死にそうな小さな声で「えーっ・・・」と落ち込んでいる。
隣のこいつも心配だが、俺も頭が追い付かない。いくらなんでも展開がきつすぎる。
休憩を入れて欲しい!!コーヒー飲んでゆっくりしたいと俺も限界が近づいた時
場面が変わってMJとネッドがストレンジアクセサリーでピーターを探している。
ピーター発見!!あれ?知っているピーターじゃない。
二人は知らないが、俺たちはよく知っているピーター・パーカー・・・
アンドリュー・ガーフィールドがいる!!!!
「ほぁぁぁぁぁぁ!!」とS君の息子が我慢できず叫んだ。
1分もしないうちに、20年前、灰色だった青春時代を勇気づけてくれた恩人中の恩人であるピーター・パーカー・・・
トビー・マグワイアもやってきた!!
「ほぁぁぁぁぁぁ!!」と叫ぶ俺とS君
一緒に観た回の皆さんごめんなさい。
映画館では静かにしないといけないのは承知しています。
無意識の悲鳴でした。
落ち込むトム・ホランドに「俺もグウェンを死なせて自暴自棄だった。」「ベンおじさんを守れなかった」と慰めるスパイダーマンたち。
ファンサービス的なカメオ出演じゃない。
ゴリゴリに歴代スパイダーマン達が絡んでいる。
「彼女はいないの?」
「俺たちどの世界でも恋愛はパッとしないなぁ(苦笑)」
「えーっ!?手首から糸出るの!?」
「サイのロシア人と戦った!?君すごいね!!アメイジングだよ!!アメイジング!!」
まさかのスパイダー世間話が繰り広げられている。
気絶する直前の俺、号泣しているS君、瞳孔が開いているS君の息子。
見事に全員が要精密検査になっている。
「機動戦士ガンダム」でドムが3体並ぶのは常識だ。
しかし歴代スパイダーマンが3人揃っていることは緊急事態だ。
アベンジャーズがアッセンブルするよりも奇跡。20年間追いかけたスパイダーマン達がスパイダー精神を爆発させてスパイダージェットストリームアタックを決めている。
妄想した事はある。フィギュアを並べた事もある。
今目にしている事は現実だ。
夢だけど夢じゃない。
転落したゼンデイヤを・・・アンドリュー・ガーフィールドがキャッチした!!
号泣しながら「大丈夫かい?」と気遣うアメスパ。
ごめんなさい、今までアメスパは認めないと言って。あなたの演技は映画史に残りました。
感動と謝罪で俺も涙腺が崩壊した。
トム・ホランドとウィレム・デフォーがグーで殴り合っている!!
「プラトーン」の頃から好きなデフォーとトムホがガチンコ・・・スパイダーマンの歴史どころじゃない。
俺の映画人生が集約されていた。
正直、ノー・ウェイ・ホームを観るまで「どうせマルチバースというチートを使ってゴリ押しするんだろう」と冷めていた事を反省した。
大学進学と自身の甘さで時空を歪めたトム・ホランドスパイダーマンに降りかかる大きな代償。
スパイダーマンのテーマである「大いなる力には大いなる責任が伴う」をMCU最大レベルで
描いていた。
トム・ホランド演じるピーター的にはつらい話が
「あんたさぁ「エンドゲーム」以降はさすがに勢いなくなったとか、マルチバースとか反則とか言ってくれてましたけど、こちらてめぇが思っているよりしっかり考えてますから!!しっかりした映画作ってますんで!!」
というマーベルからの力強いメッセージのように感じた。ごめんなさい。
「想像しろ。超えてやる。」のキャッチコピーは事実でした。
エンドロールのキャストの名前を見ても現実と思えない。こんな事「エクスペンダブルズ」以来だ。
ここからドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネスにつながるのか・・・「地球最大の炎上処理」やん。
登場が期待されていたエディとヴェノムは結局、飲み屋で泥酔しただけで元の世界に戻っていった。
お会計しないまま・・・。
映画が終わると外はきれいな夕日だった。
駅に向かうまで3人とも
「スパイダーマン・・・すごかった。」
「グリーンゴブリンもドック・オクも・・・すごかった」
「全部すごかった」
「いや・・・すごかった」
「うん・・・すごかった」
と「すごかった」しか口にしないまま別れた。
家の最寄駅についた時、俺の手には使い道が全くないバッジが握られていた。
家に帰ってからもS君の息子が「生きてきて一番おもしろかった」と静かに言っていたらしい。
俺たちもこれまでたくさんの「人生における名作」に出会ってきた。
そういう映画は作品だけでなく、その日の映画館や帰り道の風景も残る。
「エクスペンダブルズ」で居酒屋で深夜まで話して終電を逃したとか
「エクスペンダブルズ2」でマクドナルドで閉店まで喋って終電を逃したとか・・・。
9歳の子供にとって一生忘れられない日になったのだろう。(おっさんの俺たちも同じだが)
5年もしないうちに彼も俺たちではなく友達や彼女と一緒に行くようになるだろうが、これからも少しでも思い出を共有できれば良いなと思ったり。
翌朝、S君の息子が起きてくるなり「昨日スパイダーマンが揃ってたんやけどあれは現実にあったことか?夢か?」とマトリックスのキアヌ・リーブスみたいな状態になっていたらしい。
忘れられない思い出どころか深刻な状況だった。一刻も早く医療機関での適切な治療が必要だ。
持ってるけどかなりおすすめ。
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