ノンフィクション「ド底辺バンドマン物語」第4回

第4回「インフィニティ・ドツボ」

全く芽が出なかったが、なんとか低空飛行で活動していたバンドにとどめを刺す事件が起こった。

ボーカルの脱退。

実際のところ、音楽面のみならず、ライブハウスのコネなど運営面も含めて全てボーカルのワンマンバンドだった。

大物との対バンの機会も、ライブハウスがチラシに「ピックアップアーティスト」として掲載してくれていたのも、全てはボーカルが地元のライブハウスで顔が広かった事が理由だった。

タトゥーがびっしりでいかにもワルな風貌だったが、物腰が柔らかく、相手の短所を責めるのではなく、長所を見つけて褒めるような人格者だったので、「仕事を見つけるため田舎に帰る」と言っていたが、実際はそれだけじゃなかっただろう。

俺よりも一足早く現実に気づいたんだと思う。

残りのメンバーで話合った結果、これで解散するのはボーカルが悲しむだろうし、
ここで諦めるのは男じゃない。という事で活動は続けることにした。

ギターの俺以外のメンバーに触れていくと・・・。

ベースは俺の大学の軽音学部の頃からの同級生。
出会った頃はヒップホップやメロコア好き。

中型バイクを持っていてアウトドア派でフットサルやスケボーを楽しむといった典型的なリア充だった。

もちろん大嫌いだったがいつの間にか一緒に過ごすことが増え意気投合、お互い好きな音楽を教え合うまではよかったが、ガンダムを教えた頃くらいからおかしくなった。

元々凝り性という性格が災いし、「塗装の技術を盗む」と言って模型屋のガラスケースに飾られたガンプラを何時間も凝視するようなキモオタになった。

良い奴だが、どちらかと一歩引いて物事を見るタイプで積極的に前に出ないところがあった。

ちなみに酒癖と女の趣味が壊滅的にひどかった。

ドラムに至っては・・・俺より年上だったが、まず毎週2時間しかないバンド練習を30分遅刻していた。

毎回きっちり30分遅れるのである日理由を聞いたらバイト先でまかないを食べてからスタジオに向かうから遅れると真顔で言っていた。

キャッシングの意味を知らず、いつのまにか25万円近く使ってしまい既に定年退職している親に泣き付いて立て替えてもらう

フリーターで時間には余裕があるはずなのに一番練習不足で曲の展開をすぐに忘れる

当時バンドを掛け持ちしており、そっちのバンドで自称「業界人」のおっさんにそそのかされて、プロの芸能人も呼んで自主イベントを開いた結果大赤字。フリーターなのに借金数十万を背負っていた。(そのオッサンは50歳を超えてドレッドヘアでうさん臭さバツグンだった。)

それでもヘラヘラしていた。

という早い話がクソだった。

こんなメンツなので自然とバンドの主導権は俺になった。

今の俺なら「やめよう!!解散!!」と即座に判断するが、自分の音楽的な才能を盲信していた俺は「俺が新しいバンドを引っ張る」という小さな野望に燃えていた。

ひとまず3人でスタジオに入ってボーカルはそれぞれで分担したのだが、誰一人歌いこなせない。

まるでラーメンから麺とスープをなくしたような音・・・・自分達で悲しくなった。

続けるといったもののこれはまずい。

考えた結果、体裁を整えるのではなく、現状を逆手に取り「看板メンバーを失い崖っぷちのバンド」を全面的に打ち出そうという事に決めた。

今までブログやtwitter等での「本物のロックンロールを聴きたきゃ俺達!!」といった挑発的な告知から

「3人になってからチケットが売れません。僕たち頑張るから来て!!」と切実な願いを込めた告知へ。

今まではカッコつけてほとんどしなかったMCも、
「ロックンローラーだが自炊が好きで、最近は煮物にハマっている」
「今までクールを装っていたが、本当は喋りかけてくれて嬉しかった」と
「この人達本当は普通の人なんだ」と親近感を呼ぶようなスタイルに変更した。

これが新しい俺たち!!新規一転、頑張るぞ!!と意気込んだ結果・・・・。

本来、俺達がメインとなるイベントのはずが、会場入りしてみるとデスメタルのイベントに変わっており、俺達は「オープニングゲスト」という扱いになっていた

翌月のイベントも「高校生・社会人みんなで忘年バンド大会」という内容に変わっており、ライブハウスのルールをわからず、持ち時間を10分近く超えてエルレガーデンを演奏した高校生たちが楽屋で胸ぐらを掴まれて半泣きで帰っていくというトラブルが起こった。

とことん惨めになった俺達がどうなっていったか・・・人間関係が悪化していった。

人格者であるボーカルがいなくなったこともあり、俺とベースによるドラムへの批判が激しさを増した。

ドラムは悪い意味での意識高い系でmixiでも政治や経済に対する薄っぺらい感想を書いていたり、偉人の名言系が大好きでしょっちゅう「俺もポジティブなメッセージを発信できる人間になりたい」とか薄っぺらい発言が多かった。

ある日スタジオでビートルズについて語っていた事があったが、熱心なビートルズファンである俺は嬉しくなりよくよく聞いてみたらベスト版を聴いた事のあるくらいで更にイラ立たせた。

バンド関係なしで言動全てがムカつくようになり、1か月もしないうちに野良犬のような扱いになっていった。

今振り返ってもドラムは決して好きなタイプの人間ではないが、集団行動には環境は大切だ。ギスギスしていては良い物なんて何も生まれない。

その頃ドラムには内緒で新しいドラマーをオーディションしたが、うまくいかなかった。

ドラム以外もでセカンドギタリストを入れようとしたが、丁重に断られた。

「どうして何一つうまくいかない」とむしゃくしゃしていたが、こんなバンド
に良い事が起こるわけない。

当時の3人になってからのライブの映像を観返したら
俺は「お魚くわえたドラ猫は焼き殺せ!!ちびっこ達の人気者、俺が○○○(芸名)だー!!」と叫び、ステージに飛び込んだ結果、みんなから避けられていた。

ベースはライブ前に酒を飲み過ぎて泥酔。

ドラムはというと俺とベースに「個性を出せ」「ロックじゃない」とか注文を付けられた結果、上半身裸で金色の布を腰に巻き、首から民族風のアクセサリーを多数ぶら下げ、顔を金色に塗っていた。

まるで捕虜になったツタンカーメンだった。

「若気の至り」では片づけられない程どうかしていた。

★ノンフィクション「ド底辺バンドマン物語」

第1回「意識が高いポンコツ」

第2回「出口の見えない暗闇」

第3回「暴走する散財」

第4回「インフィニティ・ドツボ」

第5回「エンドゲーム」