007とばぁちゃんの肉うどん 「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」

延期に延期を重ねていた「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」が10月1日にようやく公開された。

前回の記事からもお分かりの通り、俺は007シリーズに特別な期待はしていない。

「お約束を楽しむ」シリーズだ。

乱暴な運転で一瞬で廃車になる高級車

キレイなボンドガール

下ネタと皮肉の聞いたジョーク

上下関係が希薄かつセクハラが横行する職場

「潜入捜査」をすぐに忘れて大暴れするボンド

が出てきたら満足。

しっかり腰を据えてみるのではなく、予定のない休日の昼間にソファーに寝転んで観る。

俺と007の付き合いはそんな感じだ。

10分でわかる007入門 – Be Power Hard Boiled Z (bphbxxx.com)

「カジノ・ロワイヤル」から「硬派な6代目ジェームズ・ボンド」として個人的に大好きだったダニエル・クレイグも今度こそ卒業。

緊急事態宣言が明けたせいか盛況な映画館。久しぶりに両隣に人が座っている経験をした。

あらすじ

前作「スペクター」でMI6を退職したジェームズ・ボンドだが、世界中から恨みを買っている彼氏なので案の定、墓参り中に爆破される。

売られたケンカはいつでも買う事に定評があるボンド。
退職時に受け取ったアストンマーティンは運転開始3分で廃車同然になるが、
ボンドカーお馴染みのオプションのまきびし&ガトリングガンで返り討ちにする。

襲撃された事は100%マドレーヌ(レア・セドゥ)のせいだと断定して、事実婚状態だった彼女に「無理!!別れる!!絶交!!」と特急電車に乗せるボンド。

そしてはじまるオープニングシークエンス

ビリー・アイリッシュの寝起きみたいなカスカスの歌声(否定しているわけじゃない。)
が主題歌にマッチしているなと発見して舞台は一気に5年後に。

キューバで悠々自適の引退生活を送っていたボンドだが、もちろん2つ返事で職場復帰。

自分が引退している間に2年目の若手がさらっと2代目007を襲名している事に衝撃を受けつつ、久しぶりのMI6事務所に訪問。

もともと上下関係があまりない風通しの良い職場とはいえ、ボンドにいきなり仕事についてダメ出しされ過ぎてさすがにまぁまぁキレるM

公開前から話題だったパロマ(アナ・デ・アルマス)はやはり歴代ボンドガールトップレベルの美貌だが、大人の女性の魅力爆発の見た目とは正反対の陽気かつドジっ子っぷりにさらに惚れてしまったのは俺だけでないはず。

あまりキャリアを積んでいないという事で緊張のあまり007名物のマティーニを一気飲みするというある意味007シリーズの歴史に残る快挙を成し遂げた。

(あのマティーニ。このサイトを読んでいるような人なら経験があると思うが、下手したら
死ぬんじゃないかってくらいキツイ。一般ピープルなら即泥酔、急性アル中一歩手前になる。)

スペクターがまさかの即全滅。

いつも通りボンドの辞書には「潜入」という言葉はない。死人が出る花火大会といわんばかりの派手な銃撃戦ついでに戦いながら軽く一杯引っかける。

ジョン・ウィックなどの最近の映画に明らかに影響を受けた格闘成分多めの戦闘。

強引な展開と流行はしっかり取り入れる抜け目なさ。

「このいい意味で薄っぺらいのが007だよな!!」といつものノリにリラックスしていた。

俺が甘かった。

まさか007で号泣する日が来るとは思わなかった。

ダニエル・クレイグが最後だからというわけではなく、純粋にストーリーで泣かされた。

俺は何故「英国紳士の皮をかぶった性欲魔人」と思っていたジェームズ・ボンドでこんなに泣いているのか・・・。

昨今の映画における戦闘時ファッションといえば私服にタクティカルベストというコーディネートだったが、これから007効果でセーターが流行ると思う。

ばぁちゃんが作ってくれた肉うどんを思い出した。

家に行くたびに作ってくれた肉うどん。

細めの面で肉は安い細切れ、汁は薄い。
最後の数年は寝たきりだったので別れは常に覚悟していたが、葬式の最中にあの味を思い出して涙が止まらなくなった。

特別おいしいわけではなかったが大好きだった。
あの味、小さな団地の風景、ベランダでタバコを吸うじいちゃんの背中。

失って気づく。あの何てことない時間が幸せだった事。

ジェームズ・ボンドはばぁちゃんの肉うどんだった。

隣で見ていたじいさんが「ジェームズ・・・」と呟いて帽子を深く被りだした。

かなりの老人ではじまる前に持ち込んだ缶チューハイを飲んでいたので観賞中にいびきかいて寝始めたりしたらどうしようと心配していたが、よく見たら泣いていた。

じじい・・・てめぇ!!変な小細工しやがって!!
泣いているのはバレているんだよ!!

じじいも俺もめそめそ泣いた。ボンドのために。

映画を観た帰り、神戸のアストンマーティンの店に向かった。
今なら俺もあの店に入店できるかもしれない。

店の外から「認定中古車 ¥34,000,000」と見えてやっぱり心が折れて入れなかった。

続いて大丸に入った。

普段なら行かない時計売り場で劇中でも活躍したオメガの007モデルが飾られていた。

本物は死ぬほどカッコ良かった。100万円・・・

これから10年くらい昼飯代をケチって道に落ちてるどんぐりを食べ続ければ買える。

いや、10年続けると売り切れてるだろうし第一俺の健康状態に深刻な問題が出そう。

お菓子を2,000円くらい買って家に帰った。

「おいしい、ありがとう」とご機嫌な嫁に「時計欲しいんだけど。俺もいい年だし・・・」と切り出す。

「一時期欲しいって言ってたけどやっぱ必要ないって言ってたやん、何欲しいん?」と返って来た。

「オメガの007モデル」と言い切る前に俺の挑戦は終了した。

【追記】
エンドロール終了後に泣きはらしてたら最後に「James Bond Will Return」の文字。
マーベルの影響をモロに受けた演出に思わず吹き出した。

やっぱり007が好き。