樋口真嗣をもっと褒めてあげて!!「シン・ウルトラマン」

第1章ー俺とウルトラマンー

親父が子供の頃の話。

リアルタイムで「ウルトラマン」を観ていたが、貧しい家だったのでテレビは白黒。

カラーで放送されていたことに気づいたのは俺が生まれて一緒にビデオを観た時だったらしい。

「映画館に行けるお金はなかったから「ゴジラ」は観れなかった。でもウルトラマンはテレビで観れたから好きだった。」

と聞かされて少し切なかった。

そんな事もあり子供の頃はたくさんウルトラマン関連のビデオを借りてきてくれたし、人形もたくさん買ってくれた。

俺も幼稚園に上がる前はテレビでウルトラマンが放送されていなかったので、見ていた作品は昭和時代の「ウルトラマン80」まで。

中でも「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」、「帰ってきたウルトラマン」の3作が好きだった。

親父はというとリアルタイムで観た「ウルトラQ」、「ウルトラマン」、「ウルトラセブン」が好き、というかそれしか興味がなかった。

そのため俺が子供の頃に初代とセブンの話をすると付き合ってくれたが、「帰ってきたウルトラマン」の話をすると「へー!!全然興味ない!!」とはっきりと言われた。

その後ビデオで「ウルトラマングレート」「ウルトラマンパワード」が発表されたが、舞台が海外なので違和感があった。

今考えてみると昭和のウルトラマンというと子供でも失笑するようなコメディ要素、安っぽさがあったのでその辺がなかったのもハマらなかった理由だと思う。

そして1996年に「80」以来のテレビ放送「ウルトラマンティガ」が始まった。
放送当日テレビの前で正座して観た記憶がある。

おもしろかったのだが、これもハマらなかった。

多分V6の長野君が既に有名過ぎて架空の人物感がなかったからだと思う。

「ダイナ」以降はほとんど見ることもなく、今にいたるまで初代、セブン、帰ってきたの3作が一番好きなままだ。

「ゴモラやキングジョーが神戸に来た時は嬉しかった。」と懐かしく話す親父。

照れくさいけど昔のようにウルトラマンを一緒に見れたら思い

電話で「今度映画でシン・ウルトラマンが公開するで。一緒に行こう」
と誘ってみた。

「興味ない。ウルトラマンやけど言うほど好きじゃないで。
なんとなく毎週見てたって感じ。レンタルか配信で観るわー」と返ってきた。

なんやねん。

というわけで一人で観に行った。

第2章-「シン・ウルトラマン」観賞直前-

金曜日のレイトショーでも人が多かった。

客はリアルタイム世代であろう60代男性とおそらく「エヴァ」「シン・ゴジラ」から来たであろう20~40代の男女といった感じだった。

グッズが飛ぶように売れている。地方の映画館にしては珍しい。

監督が樋口真嗣。平成ガメラやら「シン・ゴジラ」で特撮には欠かせない人だが、実写版「進撃の巨人」の事が未だに脳裏をよぎる。

脚本の庵野秀明も神格化されているが「実写版キューティーハニー」の事もあるし・・・

過去の作品をいつまでも悪く思うのはダメだと思いながらも個人的に「当たり外れが激しい」イメージ。

とはいえ「大怪獣のあとしまつみたいな気持ちになることは絶対にないはず」と思い発券。

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第3章-期待を超えた「シン・ウルトラマン」-

で、感想はというと「これでもかというくらいかまされまくった」

タイトルロゴが「ウルトラQ」「ウルトラマン」のアレなのは想像できていたが

「日本に巨大不明生物が出現しまくる世界。

それにより禍威獣特設対策室「禍特対」(初代の科特隊と同じ読みなのが憎い)
が設立」

とプロローグが始まるが

その禍威獣が「ウルトラQ」オールスターズ!!

ゴジラがモデルだけあってきちんとシン・ゴジラ準拠でリファインされたゴメスややっぱり目が死んでるぺギラ達が大暴れ。

完璧過ぎる掴みだった。

その後はファンサービスの百裂拳状態。

流れる音楽が初代のものばかり

にせウルトラマンをチョップして自分が手を痛めるウルトラマンや巨大化する長澤まさみなどさすがにリメイクしないだろうと思っていた名シーンが全部出てくる。

この調子だとカレーを食った後に変身する事になり、ベータカプセルと間違えてスプーンを出す神永(斎藤工)が観れると思ったがさすがにそれはなかった。

ゾフィーが「ゾーフィ」だったり悪役でゼットンを使って地球を消滅させようとしているのは
1960年代の雑誌の誤った情報を使ったらしい。

過去のファンサービスだけで本編はどうなのかというと

威力の反動で体が後ろに下がるスペシウム光線や、初代よりも多めに回すジャイアントスイング。

「アイアンマン」ばりのド派手CGで夜の東京を飛び回るザラブ星人戦やメフィラス星人との格闘戦と戦闘シーンが全てカッコ良い。

科特隊に負けない個性派揃いの禍特対。

何よりこれまで描かれなかった

「ウルトラマンに変身する人物が肝心な時に毎回いないのでどんどん上司、同僚からの
信頼が下がっていく」という描写があったのは高く評価したい。

あからさまに不満を言う同僚達に対して「自分もかなり神永の勤務態度には不満があるが自分まで悪く言ってしまったら部署の雰囲気が悪化する」という葛藤に悩む田村(西島秀俊)がリアルだった。

まとめると「初代ウルトラマンが大好きな人が愛情込めて丁寧に作ったウルトラマン」だった。

カラータイマーがなくなったので3分を気にせず戦ってくれるぞと予告を観た時期待していたが、「人間と融合して体力が劇的に消耗するので体の赤い模様が緑に変わる」という設定がありやっぱり一回の戦闘あたり3分程度に収めていた。

第4章-ウルトラ人情-

小細工がセコイザラブ星人や、山本耕史になっても思うようにいかなくなるとすぐに手が出るメフィラス星人もよかったが、

何よりウルトラマンがウルトラいい奴だった。

最初はコーヒーを自分の分だけ持ってきたり浮いた発言を連発し人間味の薄いウルトラマンだが、

徐々に人間について学んでいき、愛想はないけど最後は地球のために戦う。

斎藤工の「イケメンだしいい奴だけど、いまいち何考えているかわからない」演技が最高だった。

地球のために自分が死ぬ気でゼットンに挑む神永(ウルトラマン)に対して
田村班長が「犠牲になるなんてダメだ!!認めない!!」と地球滅亡よりウルトラマン優先で引き留めるシーンとみんなの前で変身して旅立つ姿では不覚にも少し涙が出た。

第5章-ウルトラおすすめ「シン・ウルトラマン」-

「シン・ゴジラ」はシリーズと比較して冒険的だったが、「シン・ウルトラマン」は
原作に忠実で嬉しいファンサービスがたっぷり。
「最後はウルトラマン頼みではなくて人間が頑張る」あたりは初代以上に人情溢れている。

ファンサービス重視だったら「安易なウケ狙い」扱いされるし、新鮮過ぎたらいくらおもしろくても批判も増える。一つだけケチをつけるなら「デュワ」とか「シュワッチ」とか言って欲しかった。

「シン・ウルトラマン」についてはこのバランスが絶妙だと思う。

庵野が絶賛されがちだが監督は樋口真嗣だ。ウルトラおもしろい映画をありがとうございました。そしてもう「進撃の巨人」の事は言いません。ごめんなさい。

「シン・ウルトラマン」を鑑賞してウルトラマンはやはり

・身近な者(人間)を大切にする
・仕事は手際良く済ます
・自分の功績をアピらない
・物静かだけど情に厚い
と社会で慕われる人の条件を全て満たしていると思った。

我々はちっぽけな人類だ、しかし心意気は変えられる。赤白帽と水中ゴーグル着用、銀色のファンデーションを塗りたくってウルトラソウルを見習って生きていこうではないか。

ーおまけー

パンフレットとビジュアルブックは絶対に買い。

特にビジュアルブック。2200円とやや高額だが、設定画集で造形を細かく見れるだけでなく
劇中の謎について庵野秀明がほぼ全て答えている。

少しだけ紹介すると
「初代みたいにウルトラマンが人身事故の責任を負う流れはやめたかった」
「予算を削るために着ぐるみが流用されていたが、それはCGでも同じ。」
「シン・ゴジラ」との世界観がつながってるかどうかは「何となく」にした。」
「「シン・ゴジラ」が苦手な人向けに「シン・ゴジラの逆襲」という怪獣対決ものを考えていた」
と見逃せない記述がたくさんある。

この手の濃い内容のものはたいてい公開から半年以上たってから発売されるが
「「シン・エヴァ」公開後にSNSやYoutubeで作品と関係ない家族を巻き込んだ批評とは思えない事をあれこれ言われて心を削られた」と書かれていたので、おかしな連中を黙らせるという理由もあるのだろう。

書いてるうちにまた観たくなってきた。いつ行こうか。